全国の運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。

運送会社同士で話をしていると、このような切実な相談を耳にすることがあります。

「ようやく運賃交渉に応じてもらえた。」 「ところが数か月後、少しずつ発注量が減り始め、気が付けば別の運送会社へ切り替えられていた…」

このような苦い経験をすると、「波風を立ててまで運賃交渉なんてしない方が良かったのではないか」と後悔してしまう経営者も少なくありません。

では、このように「交渉後に仕事が減らされた・切り替えられた」ケースは、法律上どのように解釈されるのでしょうか。取適法(取引適正化等)やトラック新法、独占禁止法の観点から、シビアな現実と実務的な防衛策を解説します。

1. 荷主が運送会社を変更すること自体は違法ではない

まず結論からお伝えすると、「運賃交渉に応じた後、ほかの運送会社へ切り替えられた」という事実単体だけでは、直ちに違法とは言えません。

なぜ違法と言えないのか?

大前提として、荷主にも「取引先を自由に行使・選択する権利(契約の自由)」があります。 「他社の方が提示運賃が安かった」「他社の方がダイヤの融通が効く」といった正当な理由で競合他社と比較され、変更された場合、これを法的に差し止めることは不可能です。

取適法やトラック新法(法改正)が目指しているのは、荷主が協議そのものを拒否したり、一方的に不当な安値を押し付けたりする取引慣行を是正することです。適正運賃の交渉ができる「土台」を作る制度であって、「一度契約した運送会社の仕事を永久に保証する制度」ではないという点は冷静に理解しておく必要があります。

2. ただし「報復的な切り替え」は違法(行政指導等)の対象になり得る

「じゃあ荷主のやりたい放題なのか」と言えば、そうではありません。切り替えの「経緯」によっては法的な問題が生じます。

以下のようなケースは、公正取引委員会や国土交通省(トラック美化・取引適正化)の監視対象となり、独占禁止法上の「優越的地位の乱用(不当な不利益取扱い)」や取適法・トラック新法の規定に抵触する可能性が高くなります。

  • 協議に応じる姿勢を見せつつ、裏で交渉申し入れを理由とした不利益取扱い(報復的な発注削減・契約解除)を行った場合
  • 「値上げを言うなら明日から仕事を全部引き揚げて他社に入れる」と脅し、協議を強制中断させた場合

行政側に客観的な証拠(メールや交渉履歴の記録)を添えて相談した場合、荷主に対して「働きかけ」や「勧告・公表」が入るリスクがあります。

ただし、荷主側も「単にコストとサービスレベルを総合勘案して他社を選定した」と主張するため、違法性を立証するのは実務上簡単なことではありません。

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運賃交渉をスムーズに進めるには、感覚ではなく「書面」に基づく客観的な根拠が必要です。荷主へのアプローチ方法については以下で詳しく解説しています。

3. 現場で起きている「荷主のシビアな経営判断」

法律の議論から離れ、現場のリアルな視点で考えてみましょう。 荷主も自社の利益を守らなければならない一企業です。

運送会社から値上げを提示された際、表面上は理解を示して交渉に応じつつも、裏では以下のような動向を見せることが珍しくありません。

  1. 他社へ相見積もりを取り、相場を確認する
  2. 既存の運送会社が提示した新運賃と、他社の見積もりを比較する
  3. 「値上げ後の価格なら、サービス品質が同等で安いB社に乗り換えた方が得だ」と判断する

これは荷主側の合理的なコストコントロール(経営判断)です。 だからこそ、運送会社側は「運賃値上げに同意してもらえたから一安心」と胸を撫で下ろすのではなく、「他社へ流出するリスク」を織り込んだ次の一手を用意しておく必要があります。

4. 単一荷主への依存を脱却する「リスク分散」と「優先順位」

もし自社の売上の大半を一社の荷主(特定荷主)に依存していれば、その荷主の判断ひとつで会社の存続が危うくなります。

「交渉したら仕事がなくなるかもしれない」という恐怖の根源は、「断られたときの選択肢(別の荷主)がないこと」にあります。

運賃交渉を進めると同時に、以下の経営戦略を並行して動かさなければなりません。

  • 新規荷主の開拓: 1社依存度を下げ、交渉による失注リスクを吸収できる体制を作る
  • 不採算案件の整理: 価格交渉に応じない、あるいは値上げ後に他社へ逃げるような「利益の出ない仕事」をあえて手放し、高粗利の案件へリソースを振り分ける

5. 価格以外の「自社だけの強み」を棚卸しする

荷主が「運賃の安さ」だけで運送会社を選んでいる場合、遅かれ早かれ、より安い競合他社が現れた時点で仕事を奪われます。

逆に、以下のような強み・価値を提供できているでしょうか。

  • 特殊作業や技術力(ユニック、重量物、精密機械などの専門性)
  • 徹底したコンプライアンスと安全管理(荷主企業のブランドイメージを守る)
  • 現場ドライバーの質の高い対応力(荷降ろし先での評判の良さ)
  • 突発的な案件への柔軟な対応力

「安さ」以外の価値が認知されていれば、荷主としても「数万円の運賃をケチって他社に乗り換え、配送トラブルを起こされるより、高くても〇〇運送さんに頼みたい」という判断になります。

まとめ:「荷主を選ぶ時代」を生き抜くために

私自身、長年運送業界の現場に携わっていますが、業界の構造は確実に変化しています。

かつてのように「嫌なら他で運ばせる」「安ければどこの運送会社でもいい」という荷主の態度は、深刻なドライバー不足と法改正(トラック新法・取適法)によって通用しなくなりつつあります。極端に低い運賃しか支払わない荷主は、最終的に「運んでくれる運送会社が誰もいなくなる」というリスクを抱えることになります。

これからは、荷主が運送会社を選ぶだけでなく、運送会社も健全な経営を行うために「荷主を選ぶ」時代です。

  1. 取適法やトラック新法などの法的根拠を理解し、正当に交渉する
  2. 不当な報復措置にはしかるべき記録(証拠)を残して備える
  3. 自社の適正原価を把握し、自社価値を高めながら取引先を分散させる

運賃交渉で仕事を失うことを過剰に恐れず、自社の強みと適正な利益を守るための経営戦略を進めていきましょう。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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