運送業の経営者の皆様、本日もお疲れ様です。

私はここ最近、実際に自社の荷主様と「書面交付」や「運賃改定」について何度も協議を行っています。そこで実際に現場で動いてみて、一番驚いたことがあります。

それは、想像以上に荷主側が「法改正(トラック新法など)」の内容をご存じなかったことです。

もちろん、大企業や物流部門がしっかりしている会社では正しく理解されていました。しかし、中小企業の荷主様からは、 「そんな法律に変わったんですか?」 「書面交付って何ですか?」 という反応が返ってくることも決して珍しくありませんでした。

私は「法律が変わったからすぐに運賃が上がる」などという甘い考えは持っていません。ただ、今回の法改正と書面交付義務化は、運送会社にとって「荷主と運賃交渉を始めるための最大のきっかけ(大義名分)」になると確信しています。今回は、私が実際に行っている交渉のステップと現場で感じたリアルをお伝えします。

1. 法改正は「運送会社だけ」の義務ではない

勘違いされている方もいますが、今回の法改正は運送会社だけが一方的に対応すれば良いものではありません。荷主にも協力義務があります。

運送会社が必要な資料(原価や労働時間など)を提示し、荷主も輸送内容や条件を整理しながら、お互いに適正な契約内容を協議していく。そのための制度です。 ですから、「一度値上げのお願いをして終わる」ものではありません。実際には何度も協議を重ねながら、お互いが納得できる着地点を探していく長期戦になります。

2. いきなり「運賃交渉」をするのはおすすめしません

私自身が実際に交渉して強く感じたのは、最初からいきなり「運賃を上げてください」と切り出すよりも、話を持っていく「順番」が極めて重要だということです。

私であれば、次のような3つのステップで話を進めます。

  1. まずは「書面交付の義務化」について説明する 「法律でこう決まったので、まずは現状の取引を書面にさせてください」と、法的な事実から入ります。
  1. これまで曖昧になっていた「附帯業務」を整理する 荷待ち時間、荷役作業、その他の附帯作業、高速料金の負担区分など。これらを契約書や書面の中で明確に切り分けます。
  2. 最後に「原価上昇による運賃改定」について協議する 業務内容が明確になった段階で、初めて現在のコスト(原価)と運賃のギャップについて話をします。

この順番で進める方が、荷主様にとっても「なぜ見直す必要があるのか」という論理が通りやすく、理解していただきやすいと感じました。

💡 【実務のポイント】交渉には「公式資料」を持参しましょう 荷主様が法改正をご存じない場合、口頭で説明するよりも国や協会の資料をお見せするのが一番効果的です。以下の公式PDFを印刷して、面談時に提示することをおすすめします。

国土交通省: 荷主の皆様へ「トラック運送業における書面交付の義務化」チラシ(PDF)

全日本トラック協会: 荷主向け適正取引推進パンフレット(PDF)

3. 書面交付と別立て請求は「運送会社を守る盾」

書面交付に対して、「面倒な書類が増えただけ」とネガティブに捉える経営者もいます。しかし、私は逆だと思っています。

今まで口約束や現場の善意で済ませていた内容を、お互いが確認できる形で残す。これにより、後から「そんな話は聞いていない」「そこまでお願いした覚えはない」というトラブルを確実に防ぐことができます。

また、荷待ちや荷役作業が運賃に「込み込み」になっている会社は少なくありませんが、本来、輸送と附帯業務は分けて(別立てで)請求すべきです。 別立てにすることで、荷主側も「何に費用が発生しているのか」を視覚的に理解しやすくなり、運送会社も本来受け取るべき対価を堂々と請求できるようになります。結果として、これは双方にとってメリットのある制度なのです。

4. 最後の決手は「情」ではなく「原価の数字」

何社かの荷主様と協議を重ねましたが、結局最後に行き着くのは「自社の原価」の話でした。

燃料代、人件費、修繕費、車両価格の上昇、保険料。これらを「具体的な数字(データ)」として示しながら説明すると、多くの荷主様は真剣に話を聞いてくださいました。 逆に、「物価高で何となく厳しいので、少し上げてください」という感情的なお願いだけでは、やはり企業間取引において説得力がありません。だからこそ、「正確な原価計算」が交渉において一番の武器になると私は考えています。

5. 【余談】適正運賃を巡る行政の動きについて

先日、トラック協会の巡回指導員の方とお話しする機会がありました。その際の雑談の中で、 「将来的には、業種ごとの最低運賃のような仕組みも検討されているという話がある」 という話題が出ました。

これはあくまで雑談レベルの確認できていない情報であり、現時点で制度として決定している事実ではありません。

ただ、国全体として「適正運賃を収受できる環境を強制的にでも整えようとしている」という強い流れがあるのは確かです。だからこそ、国が動いて制度が完全に整ってから受け身で動くのではなく、「今」から自ら動き、荷主との信頼関係を築いて協議を積み重ねておくことが重要ではないでしょうか。

まとめ:荷主は敵ではない

今回の法改正対応と交渉を通じて、私が一番強く感じたことがあります。 それは、「荷主は敵ではない」ということです。

知らない制度があれば、丁寧に説明すればいい。分からないと言われれば、具体的な数字や資料を出して論理的に説明すればいい。そして、お互いに事業を継続できる納得のいく落としどころを探していく。その地道な積み重ねが、これからの運送業には絶対に必要です。

「書面交付」はゴールではありません。適正運賃を実現し、会社を存続させるための「スタートライン」です。まずは現状の取引の洗い出しから始めてみましょう。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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