運送業の経営者の皆様、本日もお疲れ様です。
「少しの坂だから、まあ大丈夫だろう」 あの時の自分の甘い判断を、私は今でもはっきり覚えています。 そして同時に、**「あれは本当に、一歩間違えれば人生が終わっていた」**と今でも背筋が凍ります。
今回は、私が過去に現場で実際に起こしてしまった、絶対に笑えないヒヤリハット(いや、実質アウト)の体験談をお話しします。
1. 「いつも通りの駐車」に潜んでいた悪魔
その日は、何か特別な状況だったわけではありません。
- 荷下ろしのための現場
- 駐車場所は「少しだけ傾斜のある坂道」
- 時間的に少し余裕がなく、急いでいた
- 何度も来ている、いつも通りの流れ
そして私は、「タイヤ止め(輪止め)」を使いませんでした。 理由は極めてシンプルです。「サイドブレーキは引いたし、ちょっとの傾斜だし、すぐ終わるから大丈夫だろう」。完全に現場の“慣れ”と“油断”でした。
2. 音もなく、無人のトラックが“勝手に”動き出す
荷台から離れ、作業に入ってしばらくした時のことです。 ふと、背後に奇妙な違和感を覚えました。
視線を向けた先には、信じられない光景が広がっていました。 無人のはずのトラックが、ゆっくりと後ろに動いているのです。
一瞬、頭が真っ白になり、何が起きているのか理解できませんでした。誰も乗っていない重さ数トンの鉄の塊が、音もなく、静かに、しかし確実に坂を下っていく。
慌てて追いかけましたが、当然間に合いません。 トラックは一度動き出すと、人間の力ではどうにも止めることなど不可能です。
そのままトラックは坂を下り——ガードレールに激突し、さらに電柱に当たってようやく停止しました。
3. 「もし後ろに人がいたら…」という戦慄の現実
幸いにも、この時は奇跡的に周囲に人がおらず、他の一般車両を巻き込むこともありませんでした。電柱とガードレール、そして自車の破損という「物損事故」だけで済みました。
ですが、現場で立ち尽くしながら、私は心の底から恐怖しました。 「あの時、もしトラックの後ろに人がいたら……間違いなく轢き殺していた。私の人生も、会社も終わっていた」
それくらい、取り返しのつかない極めて危険な状況でした。
「もしこれが死亡事故になっていれば、事業許可の取消し(廃業)の可能性もありました。たった一度の油断が経営にどれほどのダメージを与えるか、こちらの記事も確認してください。」
4. 原因は100%「基本をサボったこと」
原因は分析するまでもありません。 「タイヤ止めをしていなかったこと」。これだけです。
サイドブレーキは間違いなくかけていました。ほんの短時間のつもりでした。 それでも、荷物を積んだ車両の重量と傾斜のバランスが崩れれば、サイドブレーキの制動力など簡単に負けてトラックは動き出します。
運送業に限らず、タイヤ止め、サイドブレーキ、安全確認といった基本動作は「やって当たり前」のものです。 ですが、日々の現場の忙しさの中で、「ちょっと面倒だから」「今まで大丈夫だったから」と省略されがちです。その“慣れの隙間”に、重大事故は入り込んできます。
「少しの坂」が一番危ない。 見た目以上に傾斜があり、ドライバーの危機感が薄れやすいからです。
平坦なコンビニの駐車場で留める場合でも輪留めは必要です。
5. 事故を止める「最後の砦」
この経験以降、私の会社ではルールを徹底的に変えました。
- 坂道・平地に関わらず、駐車時は「必ず」タイヤ止めを使用
- 短時間の荷下ろしでも例外は一切認めない
- 新人教育の際、この私の大失敗を「実例」として必ず語る
正直に言って、私自身がこの恐ろしい一件を経験していなければ、ここまで社内のルールを厳格に徹底できていなかったと思います。
まとめ:事故は「油断」から生まれる
トラックが勝手に動き出し、大惨事になりかけたこの話は、決して大げさな作り話ではありません。 現場に毎日出ていると、「これくらいなら大丈夫だろう」と思ってしまう瞬間は誰にでも必ずあります。でも、そのたった一度の油断が、人の命を奪い、会社を倒産に追い込む結果に直結します。
タイヤ止めを置く、たった数秒の手間。それは決して面倒な作業ではなく、**「あなたと会社を守る最後の砦」**です。
同じような恐怖を経験しないためにも、経営者・運行管理者の皆様は、安全教育(ミーティング)を行いあたりまえの基本動作をもう一度見直すきっかけにしてください。
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この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に現時点で27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉に関わってきている経験をもとに、
運送業のリアルな課題や裏話を法律と現場の両面から解説しています。
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