運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。

運送会社を経営していると、配送中の事故や車両故障、慢性的なドライバー不足など、日々さまざまなトラブルに直面します。

しかし、以前現場で「まさか会社がここまで法律手続きに巻き込まれるとは…」と深く驚かされた出来事がありました。

それが、「ドライバーに対する給与差押(さしおさえ)命令」です。

「借金や滞納は本人のプライベートな問題」と思いがちですが、給与差押えの段階に達すると、会社は法律上の「第三債務者」として義務を負い、膨大な事務作業と法的手続きを強いられることになります。

今回は、実際に当社で経験した給与差押えのリアルな顛末と、そこから学んだ採用・労務管理のリスク防衛策をお話しします。

1. 裁判所から突然届く「債権差押命令」と「陳述書」

ある日、会社宛てに裁判所から1通の特別送達が届きました。 開封してみると、内容は所属ドライバーに対する「給与差押命令」でした。

最初は「なぜ会社にこんな書類が?」と状況を把握できませんでしたが、詳しく確認すると、ドライバー本人が負債を抱えており、債権者が裁判所を通じて給与の差し押さえ手続きを行ったというものでした。

ここで知っておくべきは、会社は「第三債務者」としてこの手続きを拒否・無視することは絶対にできないという点です。

差押命令が届くと、会社は以下の対応を義務付けられます。

  • 陳述書の提出: 給与の支払状況や他社からの差押えの有無などを記入し、通常2週間以内に裁判所へ返送する。
  • 控除と保管(または弁済): 原則として毎月の給与手取り額の4分の1(手取りが33万円を超える場合は33万円を超えた全額)を本人に支払わず、控除して保管する。

通常業務に追われる中、見慣れない法律文書を解読し、給与計算ロジックを変更する作業だけで、大きな負担となります。

2. 複数の差押えが重なった時に発生する「執行供託」の罠

今回のケースでさらに事態を複雑にしたのは、「複数の債権者から差押えが重複して届いた」ことでした。

差押えが1件だけであれば、計算した控除額をその債権者に直接振り込めば済みます。 しかし、複数の差押えが競合した場合、会社が勝手な判断でどちらか一方に支払ってしまうと、別の債権者から「二重払い」を請求されるという法的リスクが発生します。

そのため、会社は民事執行法に基づき、法務局へお金を預ける「執行供託(義務供託)」の手続きを行わなければならなくなります。

  1. 管轄の法務局で供託申請を行う
  2. 控除した給与を供託口座へ振り込む
  3. 裁判所へ「供託事情届」を提出する

普段の運送業務ではまず触れることのない専門的な手続きです。書類の作成や法務局・裁判所とのやり取りに膨大な時間を費やし、本来集中すべき運行管理や営業業務が大きく圧迫されることになりました。

3. 「紹介採用」だからこそ落ちたチェックの盲点

今回のドライバーは、知人からの「紹介」による採用でした。

「紹介だから人柄も大丈夫だろう」という安心感や甘えがあり、通常の中途採用であれば行うべき細かな経歴や前職の退職理由、現在の就労意欲などのヒアリングが不十分だったことも否めません。

もちろん、過去に借金があったり苦しい事情を抱えたりしていること自体を理由に、採用を一律に拒否すべきだと言いたいわけではありません。人生には様々な波があります。

しかし、給与差押えにまで至っている場合、本人の生活基盤が不安定になっているだけでなく、会社側にも法的・事務的な巻き込みが発生するというリスクを経営者は認識しておく必要があります。

「紹介だから」と油断せず、一人の労働者・契約相手として丁寧な確認を行うことの重要性を痛感しました。

4. 採用時・労務管理における注意点と現実的な防衛策

では、会社としてこのようなリスクにどう備えるべきでしょうか。

実務上、注意しなければならない法的なポイントがあります。

✕ やってはいけない対応

  • 面接でプライベートな借金や資産状況を細かく追及する (職業安定法の指針やプライバシー侵害に抵触する恐れがあります)
  • 「給与差押えが届いた」という理由だけで即座に解雇する (解雇権の濫用=労働契約法16条違反となり、無効とされる可能性が極めて高いです)

○ 会社が取るべき現実的な防衛策

  1. 就業規則や社内ルールの整備 「裁判所や公的機関から会社へ通知が届くような事態(差押え等)が生じる可能性がある場合は、事前に社内窓口へ相談・報告すること」を周知しておく。
  2. 面接時の「前職の退職理由」と「現状」の丁寧な確認 前職を辞めた理由や、現在安心して業務に専念できる環境にあるかを、プライバシーに配慮しつつ対話の中で確認する。
  3. 早期に相談できる「報告文化」の構築 差押えの手続きに入ってしまう前に、本人が会社に相談できる関係性を作っておくこと。「事前にわかっていれば、前払い制度の活用や専門家(弁護士・司法書士)への相談を促し、差押えを回避できた」というケースも少なくありません。

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トラブルを未然に防ぐ根本は、ドライバーが些細なことでも会社に隠さず共有できる「社内体制」です。報告文化の作り方はこちらでまとめています。

まとめ:一人のリスクは会社全体のリスクになる

給与差押えは、決して「ドライバー個人の問題」では終わりません。

ひとたび差押命令が届けば、会社は法律上の対応義務を負い、本来不要であったはずの時間・労力・事務コストを支払うことになります。

運送会社の経営において、ドライバーの「運転技術」や「保有資格」を確認することは当然大切です。しかし、健全な会社運営を継続するためには、労務・コンプライアンス上の潜在的なリスクにも目を配り、適切な確認とルール化を行っていくことが不可欠です。

同じような突然の手続きで苦慮する運送会社の社長様が少しでも減るよう、ひとつの実体験として参考にしていただければ幸いです。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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