全国の運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。
今回は、安全教育のテーマとして「バックモニターの過信」についてお話しします。
バックモニターは非常に便利な補助装置ですが、決して「安全確認の代わり」にはなりません。今回は、実際に運送会社で発生した脱輪事故をもとに、「思い込み」と「確認不足」が、結果として会社にどれほど大きな経済的損失をもたらすのかを解説します。
1. 実際に起きた事故:モニターには映らない「落とし穴」
ある現場で、ドライバーがバックモニターだけを確認しながらトラックを後退させていました。 「後ろの壁は見えているから大丈夫」 そう判断してバックを続けた結果、モニターの死角になっていた約80cmの段差へ後輪が完全に脱輪してしまいました。
幸い人身事故にはなりませんでしたが、トラックは傾き、自力では全く動けなくなりました。
2. 脱輪は「落ちて終わり」ではない。地獄の復旧作業
問題はここからです。脱輪事故は、ただトラックが落ちただけでは終わりません。
- まず、脱出させるために本社の応援ドライバーを緊急手配。
- トラックが重くて引き上げられないため、積み荷をすべて別の車両へ手作業で積み替え(空荷にする)。
- そのうえで大型のクレーン車を手配し、後輪を吊り上げてようやく脱出。
しかし、無事に引き上げた後、車両の下回りを確認すると、ドライブシャフトが大きく損傷(曲がっている)していることが判明しました。結局、自走することはできず、ロードサービスを手配してレッカー車で修理工場へ搬送することになりました。
3. ドライバーの「数十秒の手抜き」が招いた莫大な損失
なぜ、この事故は起きたのでしょうか。原因は「バックモニターの性能が悪い」のではありません。 問題は、「モニターに映っているから大丈夫」というドライバーの思い込みです。
バックモニターはあくまで補助装置です。カメラには映らない死角があり、地面の段差や路肩の地盤の緩さなどは十分に把握できません。「数十秒、車両から降りて自分の目で確認する」。たったそれだけの手間を惜しんだ結果、会社はどうなったか。
- ドライブシャフトの交換を含む高額な修理費
- クレーン車やレッカー車の手配費用
- 応援に駆けつけた複数人の社員の人件費(残業代)
- トラックが長期間修理に入ることによる「休車損害(売上の喪失)」
数十秒の確認を怠っただけで、会社は数十万〜数百万円単位のキャッシュをドブに捨てたのと同じです。
「ドライバーは『会社のトラックをぶつけても保険で直るだろう』と軽く考えがちです。事故や修理がどれだけ会社の利益を削っているか、経営者として正確なコストを把握し、安全会議で数字として提示するための無料ツールはこちらです。」
4. 現場で「過信」が起きやすい5つの危険な条件
このような状況は、決して珍しいことではありません。以下のような条件が重なったとき、ドライバーは「降りて確認する」という基本動作を省略してしまう危険が高まります。
- 初めて入る納品先(現地の状況を知らない)
- 夜間や雨天で見えにくい現場(降りるのが面倒になる)
- 極端に狭いヤードや倉庫
- 納品時間に追われて焦っているとき
- 「いつもここでバックしているから大丈夫」という慣れ
特に一番怖いのが、5番目の「慣れ」です。いつもと同じ現場でも、たまたまその日だけパレットが置かれていたり、路肩が雨で崩れやすくなっていたりする変化に気づけず、事故は起こります。
5. 自社で徹底すべき安全ルールのポイント
この事故から学び、現場に徹底させるべき行動基準は以下の通りです。
- バックモニターだけで後退しない(あくまで補助として扱う)。
- 死角や段差が少しでも気になる場合は、必ず一度車両を降りて自分の目で確認する。
- 不安を感じたら迷わず現場の人間に誘導を依頼する。
- 「これくらい大丈夫だろう」という自己判断を絶対に許さない。
管理者は、こうした「些細な確認不足が引き起こした重大な結果(修理費や休車損害のリアルな数字)」を、毎月の安全会議などでドライバーへ定期的に共有し、再発防止に繋げる必要があります。
「現場での『これくらい大丈夫』という勝手な判断は、バック事故だけでなく、荷役作業や荷主とのトラブルにおいても致命傷になります。ドライバーの自己判断を防ぐための『報告文化の作り方』はこちらで解説しています。
まとめ:安全確認の徹底が「最大の利益」になる
今回の脱輪事故で失われたのは、目に見える修理費だけではありません。多くの社員の時間と労力、そして荷主からの信用が失われました。
もし、あなたの会社のドライバーが同じ状況だったらどうでしょうか。 「数十秒の手間をかけて安全を確認する」ことと、「数日間の修理と莫大な費用を払う」こと。どちらを選ぶべきかは火を見るより明らかです。
「ほんの少しの確認不足」が、大きな事故と会社の致命的な損失に繋がります。安全確認を無意識の習慣にし、会社の大切な資産(車両・人・利益)を守る仕組みを作っていきましょう。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。
実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。
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