全国の運送業経営者の皆様、日々の業務、本当にお疲れ様です。

最近、運送業界でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「IT導入」の話題を耳にすることが本当に多くなりました。今回は、世間に溢れる多機能な運行管理・原価管理システムについて、私が以前セミナーで感じた「現場の本音」と、これからの運送会社の現実的な投資判断について書いてみたいと思います。

1. セミナー会場で感じた、あの強烈な「違和感」

以前、あるセミナーで最新の運行管理・原価管理システムのデモを見る機会がありました。

担当者の営業マンがパソコンを操作すると、スクリーンには次々と綺麗な画面が切り替わり、データは自動で集計され、見事なグラフや分析レポートが瞬時に表示されます。機能としては、本当によくできた素晴らしいシステムでした。

しかし、そのデモを見ながら私の心の中に浮かんだのは、「これはすごい!」という感動ではなく、 「うちのような20台規模の会社で、ここまでの多機能を本当に使いこなせるだろうか……?」 という強烈な違和感でした。

2. 中小運送会社には「システムを覚える時間」などない

私は現在、約20台規模の運送会社で配車や運行管理、そして経営の実務に携わっています。

現場の日々の業務は、突発的な配車変更、ドライバーからの電話対応、荷主との無理な調整、渋滞や事故への対応など、毎日が「予定通りに進まないこと」の連続です。そのような戦場のような環境の中で、新しいシステムの分厚いマニュアルを読み込み、多くの細かい入力項目や機能を一から学習して使いこなす時間を確保するのは、現実的に考えてまず不可能です。

これは私だけの話ではなく、専任のシステム担当者や事務員を何人も置くことができない、多くの中小・零細運送会社にとって共通するリアルな現実ではないでしょうか。

3. 機能の「多さ」が、現場では「使われなくなる原因」になる

システムは、機能が多いほど営業の場では魅力的に見えます。しかし、現場に導入すると何が起きるか。

  • 入力項目が多すぎて、現場の負担が激増する
  • 操作方法を覚えるのに時間がかかり、誰も使いたがらなくなる
  • 結局、日常的に使う機能は全体の「ほんの一部(1割〜2割)」だけになる

当社でも法令対応のために「自動点呼システム」を導入していますが、日常的に使っている機能はごく一部です。自動点呼は「法令を守るために必須」だから導入する価値がありますが、「原価計算システム」は導入そのものが義務ではありません。

毎月数万円〜十数万円という高額な利用料(ランニングコスト)を支払いながら、機能の大部分を眠らせているのであれば、それは「費用対効果に見合っていない」と言わざるを得ません。

4. 原価計算は、実は「もっとシンプル」でいい

多くの経営者が勘違いしがちですが、運送会社の原価の大部分を占めるのは、

  • 人件費(ドライバー基本給・残業代など)
  • 燃料費
  • 車両費(リース代や減価償却・修繕費)
  • 高速道路料金

といった、ごく一部の「主要な費目」です。 もちろん細かい経費や雑費は山ほどありますが、それらを1円単位でシステムに細かく入力して分析したからといって、会社の経営判断や運賃交渉の結論が大きく変わることは、実務上ほとんどありません。

今、現場の経営者に本当に必要なのは、複雑で詳細な分析レポートではありません。 「荷主と運賃交渉をするために、このルート(この車両)で最低限いくらもらえば利益が出るのかという数字を、今すぐパッと把握できること」 ただそれだけなのです。

5. DXは否定しない。しかし「優先順位」を間違えないでほしい

私はDXそのものを否定するつもりは一切ありません。自動点呼やAI生成ツールなど、業務を効率化してくれる仕組みは賢く積極的に活用すべきだと思っています。

ただ、約20台規模までの中小運送会社であれば、高額なシステムへ投資する前に、絶対に優先すべきことがあります。

  • 荷主と交渉して「適正な運賃」を確保すること
  • 利益が手元に残る「健全な経営体質」を作ること
  • その利益を「ドライバーの給与」へしっかり還元して定着させること
  • 何が起きても潰れない「会社の安定」を作ること

利益が出ていない状態で、見栄や世間の風潮に流されて高額なシステムを導入しても、固定費に押しつぶされて自滅するだけです。人材育成も、安全投資も、DXも、「まずは利益を出す経営基盤があってこそ」です。

まとめ:現場で定着するのは「毎日使えるシンプルな仕組み」

27年、運送の現場で長く仕事をしてきて痛感するのは、 「どれだけ高性能で立派なシステムでも、現場で使われなければ、価値はゼロ(ただのゴミ)」 だということです。

  • 入力や操作が圧倒的に簡単であること
  • 運賃交渉に必要な「原価の数字」がすぐに分かること
  • パソコンが苦手な人でも迷わず使えること

中小運送会社には、高価で多機能なクラウドシステムよりも、このような「シンプルで長続きする仕組み」の方が、結果として圧倒的に経営の武器になります。「DXだから」と盲目的に飛びつくのではなく、「本当に今の自社に必要な投資か」を冷静に見極めていきましょう。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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