運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。
運送会社を運営する上で、トラックの整備費・修繕費は燃料費や人件費に並ぶ大きなコストです。車両が故障して稼働が止まれば売上が途絶えるだけでなく、高額な修理費用が発生します。
そのため、経営者の頭をよぎるのが次のような考えです。
「社内に一人整備士を雇って自社整備(内製化)できれば、毎月の修理費や外注費を劇的に抑えられるのではないか?」
たしかに、自社で整備士を抱えることには大きなメリットがあります。 しかし、現在の労働環境において「整備士を雇用すること」自体が極めて高難易度になっており、さらに整備士の雇用を前提とした「設備投資」には甚大な経営リスクが潜んでいます。
今回は、20台前後の中小運送会社が整備士を雇うメリット・現実的な採用難、そしてフリーランス活用などの新しい選択肢について、法的観点と実務経験を踏まえて解説します。
1. 自社で整備士を雇用する大きなメリット
もし自社で専任の整備士を雇用・確保できれば、運送会社にとって以下のような強力なメリットが生まれます。
- 軽微な不具合やオイル交換等の即座な内製化
- 整備工場への車両持ち込み・引き取り時間の削減
- 故障前の「予防整備」による稼働率の向上
- 外注費(工賃)の削減
特に車両台数が15〜20台を超えてくると、年間の修繕費総額は馬鹿になりません。自社整備がスムーズに機能すれば、車両のダウンタイム(稼働停止期間)を最小限に抑え、利益率を向上させることができます。
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2. そもそも「整備士が採れない」という厳しい現実
メリットは明白ですが、最大の壁は「そもそも市場に整備士がいない」という現実です。
ディーラーや大手整備工場の経営者と話をしても、「給与条件を上げても求人応募が全く来ない」「若手の整備士離れが深刻だ」という悲鳴を毎日のように耳にします。
大手ディーラーでさえ確保に苦戦している中で、20台規模の中小運送会社が社内整備士を採用するのは容易ではありません。
高額な給与を提示して無理に採用できたとしても、今度は人件費(固定費)が経営を圧迫します。「整備士を雇えば儲かる」という単純な計算ではなく、「そもそも自社の規模と条件で確保・維持できるのか」という冷徹な視点が必要です。
3. 法的ハードルと「退職時の設備無駄打ち」リスク
整備士の採用以上に注意が必要なのが、整備士を雇うために行う「設備投資」です。
私は過去に、「社内整備士を採用したタイミングでリフトや診断機、整備スペースに数百万〜一千万円単位の投資をしたが、数年後にその整備士が退職。後任が採れず、高額な設備が放置されてゴミと化してしまった」という痛ましい事例をいくつも見てきました。
知っておくべき「特定整備(認証工場)」の法的ハードル
また、道路運送車両法上、トラックのブレーキ分解やエンジン等の重整備、先進安全装置のエーミング(校正)といった「特定整備(旧分解整備)」を行うには、地方運輸局長の認証(認証工場)が必要です。
認証を取得するには、規定の作業面積、各種測定機器、そして専任の整備主任者(有資格者)の常駐が義務付けられます。
一人の整備士の「腕」と「資格」だけに頼って設備投資を行うと、その人物が退職した瞬間に認証基準を満たせなくなり、設備もろとも社内整備機能が完全停止するという致命的なリスク(属人化リスク)を抱えることになります。
4. 「自社雇用」以外の選択肢:フリーランスと予防整備
では、整備士を採用できない中小運送会社はどう生き残るべきでしょうか。
答えは「1人雇うか・雇わないか」の二者択一ではなく、外部リソースを柔軟に組み合わせることです。
① フリーランス・業務委託整備士の活用
近年、特定の会社に属さず、出張整備や業務委託として活動するフリーランスの整備士が増加しています。 「毎月の定期点検」「オイル・エレメント交換」「軽微なパーツ交換」など、車検や重整備以外の日常的なメンテナンスをスポットで依頼することで、正社員雇用の固定費や設備投資リスクを回避できます。
② 予防整備と日常点検の徹底
最も安上がりで効果的なのは、ドライバーによる「日常点検」の徹底です。オイル漏れや異音、タイヤの偏摩耗を早期発見できれば、重大な故障やエンジン載せ替えといった数十万円単位の損害を未然に防ぐことができます。
③ 提携整備工場との「強いパイプ」作り
すべてを自社で抱え込もうとせず、地元の信頼できる整備工場と良好な関係を構築し、優先的に入庫できるラインを確保しておく方が、トータルのコストとリスクのバランスが取れるケースも多いのです。
まとめ:経営者が考えるべきは「人」ではなく「機能の維持」
自社で整備士を雇用し、修理費を削減することは理想的な形に見えます。
しかし、人手不足が加速するこれからの時代、「特定の一人に会社の重要機能を依存する構造」は極めて危険です。
20台前後の運送会社経営者が判断すべき手順は以下の通りです。
- 現在の年間外注修理費・整備費を正確に把握する
- 整備士の給与・社保・設備導入費・法定維持費を算出し、比較する
- 「もしその整備士が明日辞めたら設備はどうなるか?」の退職リスクを評価する
「人を雇うこと」「設備を持つこと」自体を目的にしてはいけません。自社の規模や資金力に合わせて、自社雇用・外部委託・フリーランス活用を賢く組み合わせ、「いかに社内の車両稼働(整備機能)を止めずに維持するか」という視点で経営戦略を組み立てていきましょう。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。
実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。
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