運送業経営者・運行管理者、そしてドライバーの皆様、本日もお疲れ様です。
「ちゃんと見たはずなのに、見えていなかった」
運転をしていると、こんな経験はないでしょうか。
左右を確認したはずなのに、自転車がいた。ミラーを見たはずなのに、横に車がいた。バックモニターを確認していたのに、後方に障害物があった。
事故が起きた後に「見ていませんでした」ではなく、「見たつもりだった」「確認したつもりだった」というケースは決して珍しくありません。
トラックは乗用車より車体が大きく、運転席も高い位置にあります。ミラーやバックモニターなど安全確認を補助する装置もありますが、それでも死角を完全になくすことはできません。
さらに夜間や雨天では、昼間とは見え方そのものが変わります。
5月のドライバー教育②では、「自分は見えている」という思い込みについて考えてみます。
人間の目はすべてを見ているわけではない
運転中、私たちは非常に多くの情報を処理しています。
前を走る車、信号、標識、歩行者、自転車、対向車、ミラー、道路の状況など、短い時間の中で次々と確認しなければなりません。
当然、すべてを同じように見続けることはできません。
前方に意識が集中していれば、横から近づいてくる自転車への注意が薄くなることがあります。右側を気にしていれば、左側への注意が弱くなることもあります。
目に入っていることと、危険として認識していることは同じではありません。
ここが安全確認の難しいところです。
「一度見たから大丈夫」ではなく、状況が変わる可能性がある場所では何度も確認する必要があります。
トラックには構造上どうしても死角がある
トラックの運転席からは、乗用車とは違う景色が見えます。
運転席が高いため遠くは見やすい一方で、車両のすぐ近くには見えにくい場所があります。
車両の前方、左側、後方など、運転席から直接確認しにくい範囲があります。
そのためミラーやカメラなどを使って確認しますが、これらはあくまで安全確認を補助するためのものです。
ミラーには映らない範囲がありますし、カメラにも映像の範囲があります。
「ミラーに映っていないから誰もいない」
「バックモニターに映っていないから何もない」
とは限りません。
特に歩行者や自転車は短時間で位置が変わります。
数秒前に確認したときにはいなかった人が、車両を動かす瞬間には死角へ入っている可能性があります。
弊社でもバックモニターを過信した事故がありました
弊社では以前、バック時に約80センチの段差へトラックの後輪を両輪とも脱輪させる事故がありました。
ドライバーはバックモニターを確認していました。
しかし、結果として段差を十分に把握できないまま後退し、両輪が落ちました。
幸い大きな人身事故にはなりませんでしたが、その後の対応は大変でした。
積んでいた荷物を別のトラックへ積み替えるために車両を手配し、人も現場へ向かわせました。一度荷物を降ろして空荷にしたうえで、クレーンを使って後輪を吊り上げ、ようやく脱出させました。
さらに車両にも損傷が発生しました。
たった一度のバックで、これだけの対応が必要になります。
この事故で改めて感じたのが、バックモニターは便利ですが、万能ではないということです。
「映っている範囲」と「安全な範囲」は違う
バックモニターを見れば、後ろの様子が分かります。
昔のトラックに比べれば、安全確認はかなりしやすくなりました。
だからこそ怖い部分もあります。
モニターを見ることに慣れると、
「モニターを見ているから大丈夫」
という感覚になりやすいからです。
しかし、モニターに映っているのはカメラが映している範囲だけです。
左右の状況、段差、頭上の障害物、車両の振り出しなど、別の確認が必要な危険もあります。
そして、映像だけでは距離感や高低差が分かりにくい場合もあります。
少しでも分かりにくければ、一度トラックを止めて降りて確認する。
これは時間がかかります。
雨の日なら、わざわざ外へ出たくないこともあります。
それでも、事故を起こした後の時間と比べれば数十秒、数分の確認など大した時間ではありません。
弊社の脱輪事故でも、バックする前に一度降りて段差を確認していれば、防げた可能性は十分あったと思います。
バック事故で怖いのは「いつもの場所」
初めて行く現場では、多くのドライバーが慎重になります。
どこまで下がれるのか分からない。地面の状態も分からない。障害物の位置も分からない。
だから、ゆっくり確認します。
反対に、何度も行っている場所では「いつもここまで下がっているから大丈夫」と思いやすくなります。
ところが、現場の状況は毎日同じとは限りません。
資材が置かれているかもしれません。別の車が停まっているかもしれません。工事によって地面の状態が変わっているかもしれません。
「昨日大丈夫だった場所」が、今日も同じ状態とは限りません。
これはバックに限らず、運転全般に言えることです。
慣れている場所ほど、「今日も同じ」という思い込みに注意する必要があります。
夜間は昼間と同じようには見えない
夜間運転では、さらに注意が必要です。
当然ですが、暗くなれば見える範囲は限られます。
ヘッドライトがあるとはいえ、昼間と同じように周囲すべてを確認できるわけではありません。
特に注意したいのが歩行者や自転車です。
明るい服装と暗い服装では見つけやすさが違いますし、街灯の少ない道路では発見が遅れることがあります。
雨が加われば、フロントガラスや路面の反射などによって、さらに見えにくくなることがあります。
私たち運送会社のドライバーは、早朝や夜間に走る機会も多くあります。
昼間に何度も走ったことのある道路でも、夜になるとまったく違う道路に見えることがあります。
「知っている道だから大丈夫」ではなく、「夜は見え方が違う」という前提で走る必要があります。
「相手も自分を見ている」は危ない
もう一つ気を付けたい思い込みがあります。
「こちらから相手が見えているから、相手からもこちらが見えているだろう」
という考えです。
たとえば交差点で歩行者がこちらを向いている。
それだけで「トラックに気付いている」と判断するのは危険です。
こちらを見ているように見えても、実際には別のものを見ているかもしれません。
自転車も同じです。
こちらのトラックに気付いて止まると思っていたら、そのまま進んでくることがあります。
安全運転では、「相手が止まるだろう」ではなく、「相手は気付いていないかもしれない」と考える方が安全です。
トラックは車体が大きいので、「こんな大きな車が見えていないはずがない」と思ってしまいがちですが、それも思い込みです。
誘導員がいるから大丈夫、でもない
建設現場などでは、バックするときに誘導員が付くことがあります。
これも非常に助かります。
ただし、誘導員がいるから運転者は何も確認しなくていいわけではありません。
誘導員にも死角があります。
運転者と誘導員で合図の意味が違っていることもあります。
そして一番怖いのは、誘導員自身がトラックの危険な位置へ入ってしまうことです。
合図が分からなくなった。
誘導員が見えなくなった。
状況が理解できなくなった。
そんなときは、一度止まればいいのです。
無理に「たぶん下がっていいという意味だろう」と判断する必要はありません。
分からなければ止まる。
これだけでも防げる事故はあると思います。
「降りて見る」を面倒くさがらない
バック事故防止について話をすると、最後は非常に単純な話になります。
分からなければ、降りて見る。
これが一番確実です。
ただ、実際の仕事ではこれが面倒になります。
雨が降っている。時間がない。何度も乗り降りするのが面倒。現場の人を待たせている。後ろに別のトラックが待っている。
こういう状況になると、「たぶん大丈夫だろう」とそのままバックしたくなります。
しかし、弊社のように脱輪してしまえば、その後に何時間も使うことになります。
応援の人間を呼ぶ。別のトラックを手配する。積荷を積み替える。車両を救出する。修理に出す。
数十秒の確認を省いた結果、何人もの人間と何時間もの時間が必要になることがあります。
経営する側から見ても、これほどもったいないことはありません。
「降りて確認したから少し遅れた」は問題にならなくても、「確認しなかったため事故を起こした」は大きな問題になります。
安全装置は「確認しなくていい装置」ではない
最近のトラックには、さまざまな安全装置が付いています。
バックモニターだけでなく、衝突被害軽減ブレーキなど、以前にはなかった装備が増えています。
こうした装置は、事故を防ぐために非常に有効です。
しかし、安全装置が増えれば増えるほど気を付けたいことがあります。
それは、装置への過信です。
安全装置は運転者を助けるためのものであって、運転者が安全確認をしなくてもよくなる装置ではありません。
「装置があるから大丈夫」ではなく、「装置も使って確認する」。
この考え方が大切だと思います。
管理者側も「気を付けろ」だけで終わらせない
バック事故が起きたときに、
「ちゃんと後ろを見ろ」
「もっと注意しろ」
と言うだけでは、また同じ事故が起きる可能性があります。
なぜ見落としたのか。
バックモニターだけに頼っていなかったか。
降車確認が必要な場所ではなかったか。
誘導方法に問題はなかったか。
そもそも、その場所へ大型トラックをバックで入れる運行方法自体に無理はなかったか。
事故を起こした本人の注意力だけでなく、仕事のやり方まで考える必要があります。
弊社の脱輪事故についても、「ドライバーがバックを失敗した」で終わらせるのではなく、同じことを繰り返さないための教材として使う方が意味があります。
失敗した本人を責めて終わるより、その一件を会社全体の経験に変える。
事故やヒヤリハットを社員教育に使う理由は、そこにあると思っています。
5月のドライバー教育で覚えてほしいこと
今回の記事では、次の5つを覚えてください。
- 「目に入っていること」と「危険を認識していること」は同じではない。
- トラックには死角があり、ミラーやバックモニターにも確認できる範囲の限界がある。
- 夜間や雨天では昼間より見えにくくなることを前提に運転する。
- バック時に少しでも分からなければ、無理をせず一度停止して降車確認する。
- 安全装置は安全確認を省略するためのものではなく、安全確認を補助するためのものである。
「ちゃんと見た」
「確認した」
「いつも大丈夫だから」
事故が起きた後では、この言葉は何の助けにもなりません。
大切なのは、見たかどうかではなく、本当に安全を確認できたかどうかです。
特にバックするとき、「ちょっと分かりにくいな」と感じたら、一度止まって降りて見る。
たったそれだけのことで防げる事故があります。
弊社で実際に起きた脱輪事故を考えても、私はこの数十秒を惜しまないことが大切だと思っています。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
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