運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。

運送会社のデイリー運用を支える「配車担当者」。彼らは毎日、膨大な情報と制約条件を頭の中で組み立てながら運行スケジュールを作り上げています。

  • どの車両をどのルートに割り当てるか
  • この現場の狭さに対応できるドライバーは誰か
  • 前日の遅延を考慮して、過労運転(改善基準告示違反)にならない組み方はできているか
  • 荷主の突発的な変更要請にどう対応するか

こうした複雑な判断を即座に下せるのは、配車担当者の頭の中に大量の「現場の知識(暗黙知)」が詰まっているからです。

しかし、ここで経営上の大きな問題が生じます。

「その情報は、会社の中で共有・一元化されているでしょうか?」

「あの現場の注意点は〇〇さんしか知らない」「〇〇さんが休みだと配車が混乱する」という状態は、中小運送会社にとって極めて危険な経営リスクです。

今回は、配車を丸ごとAIに任せるのではなく、「配車担当者の頭の中にあるノウハウをAIで整理し、会社の資産に変える」という現実的なアプローチについて考えてみます。

1. 配車担当者は「住所と時間」だけを見て配車していない

一般の方やITベンダーは、「配送先と時間とトラックの空き状況をマッチングすれば配車は自動化できる」と考えがちです。

しかし、現場のリアルな配車はそんな単純な計算では回りません。

  • ドライバーの適性: 「大型免許を持っていても、狭いヤードへの後退が得意な人」「手積み・手降ろしに耐えられる人」「荷主との交渉が上手な人」など違いがある。
  • 現場のローカルルール: 「朝イチは搬入口が激しく混雑する」「雨が降ると屋根なしの荷降ろし場が使えなくなる」「特定の担当者の指示に従わないと追い返される」。
  • 荷主の癖: 「夕方16時以降に急な追加・キャンセルが入りやすい」「一見楽そうだが待機時間が異常に長い」。

これらの情報は、配車表や標準的な運行管理システムには載ってきません。 FAX、電話、メモ書き、LINE、あるいはベテランの記憶の中にバラバラに点在しています。配車担当者が会社にいる間は「人間の検索エンジン」として機能しますが、その人が休んだり退職したりした瞬間に、会社のノウハウが一気に消失するのです。

2. 「AI配車」の前に「AIによる情報整理」を目指すべき理由

配車マン不足が叫ばれる昨今、「AIに配車を全自動化させよう」というシステム提案が注目されています。

しかし、現場の泥臭い事情やドライバーのその日の体調・メンタルまでをリアルタイムでAIに入力し続けるのは現実的ではありません。無理に導入しても「現場で使いものにならない」と放置されるのがオチです。

だからこそ、順番を変える必要があります。

「AIに配車を行わせる」のではなく、「配車担当者の判断材料をAIに整理させる」のです。

具体的な情報集約イメージ

例えば、得意先ごとに以下のようなテキストメモ、写真、PDF、日報のコメントを特定のフォルダに放り込んでおきます。

  • 得意先Aの搬入ルール(写真・手書きメモ)
  • 過去に発生したトラブル履歴(事故報告書)
  • ドライバーからの「現場が狭かった」という報告LINE

これらをAI(生成AI等)に読み込ませ、「得意先Aに初めて行くドライバー向けの注意点を箇条書きで抽出して」と指示するだけで、一瞬で分かりやすい「現場マニュアル」が完成します。

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AIを経営や業務の現場で具体的にどう使い倒すか。経営者の実践例は以下の記事でまとめています。

3. 新人教育とリスク分散(ガバナンス)に与える絶大な効果

情報をAIで整理・データベース化しておくメリットは、属人化の解消だけではありません。

① 新人配車マン・代替要員の即戦力化

ベテラン配車マンが休みの日でも、代替の運行管理者が「〇〇工場の注意点と推奨ドライバー条件」をAI検索で即座に呼び出せるようになります。新人の教育期間も大幅に短縮できます。

② 労務管理・コンプライアンスの強化

ドライバーの資格・経験・過去の事故歴・得意不得意だけでなく、「改善基準告示上の連続運転時間・拘束時間制限」のデータを情報として紐付けておけば、配車担当者がうっかり違法な運行指示を出すリスクを未然に防ぐフィルターとして機能します。

なぜAI時代になっても配車における「人間の判断」が不可欠なのか。配車マン不足の本質についてはこちらをご覧ください。 👉

4. 導入にあたっての注意点とセキュリティリスク

この取り組みを始めるにあたり、経営者が押さえておくべき実務上の注意点が2点あります。

  1. 情報の「賞味期限」管理を行う 道路工事や荷主の担当者変更により、現場ルールは刻一刻と変わります。AIが出力した情報に「最終更新日」を明記し、定期的に人間(現場ドライバーや配車マン)がファクトチェックを行う運用ルールを作ってください。
  2. 機密情報・個人情報の取り扱いルール 社内メモやドライバー情報をChatGPTなどの外部AIツールに投入する際は、入力データがAIの学習素材として利用されない設定(オプトアウト設定や法人向けAP/エンタープライズプランの利用)を徹底してください。

まとめ:ベテランの「知恵」を会社の「資産」へ継承する

配車担当者が長年の経験で培ってきた判断力やノウハウは、運送会社にとって「最も価値のある経営資源」のひとつです。

しかし、それを一人の頭の中に閉じ込めたままにしておくことは、人手不足が加速する現代において「爆弾を抱えて経営している」のと変わりありません。

高額で複雑な自動配車システムをいきなり導入する必要はありません。

  1. 現場のメモや写真、注意点をデータとして残す(フォルダ化)
  2. AIを使ってその情報を「整理・要約・検索」できるようにする
  3. 会社全体の「共有知」として次の世代へ引き継ぐ

AIは配車マンの仕事を奪う敵ではなく、ベテランの頭の中にある貴重な知恵を会社に残し、次代へ繋ぐための強力なアシスタントです。

自社の配車情報が属人化していないか、まずは得意先1社のメモを整理することから始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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