運送業の経営者の皆様、本日も本当にお疲れ様です。
「賃上げは社会的な要請だ」というニュースが流れるたび、現場を預かる身としては、複雑な心境になりますよね。
「給料を上げたいのは山々だが、上げれば上げただけ、会社が負担する社会保険料もセットで膨らむ。これでは会社が持たない……」
この矛盾の正体は、実は政府が**「一つの意志を持った組織」ではなく、「バラバラの財布と役割を持った組織の集合体」であること**にあります。
1. 異なる「財布」を持つ役所たちの四つ巴
政府の中には、主に以下の4つの「役割」と、それぞれに紐づく「財布(目的)」が存在します。これらがバラバラに動いていることが、矛盾の根本原因です。
| 組織(役割) | 主な目的(財布の守り方) | 経営者への影響 |
| 厚生労働省(労働側) | 賃金アップ、労働環境の改善 | 「最低賃金を引き上げろ」「賃上げしろ」と迫る |
| 厚生労働省(年金・医療側) | 社会保障制度の維持、財源確保 | 「料率は固定だが、対象(給与)が増えた分はきっちり徴収する」 |
| 財務省 | 財政再建、税収の最大化 | 補助金を出し渋り、ステルス増税的な負担増を容認する |
| 経済産業省 | 企業の成長、経済の活性化 | 「価格転嫁を進めて、賃上げの原資を作れ」と旗を振る |
2. なぜ「アクセルとブレーキ」が同時に踏まれるのか?
彼らの目標は、必ずしも一致していません。
- **経産省や厚労省(労働側)**は、消費を回すために「手取り額」を増やしたい。
- しかし、**厚労省(保険側)**は、高齢化で爆発する医療・年金費を賄うために、1円でも多く「保険料」を回収したい。
この結果、経営者が賃上げを頑張れば頑張るほど、「増えた給与分」がそのまま「社会保険料の計算基礎(標準報酬月額)」を押し上げ、厚労省の「保険の財布」へと吸い込まれていく仕組みになっています。
いわば、**政府の左手が「もっと食べろ(賃上げ)」とエサを出し、右手が「食べた分だけ脂肪(保険料)を吸引する」**という、経営者にとっては溜まったものではない状況が生まれているのです。
3. 経営者が知っておくべき「負担の真実」
政府の「財布」が分かれている以上、この矛盾が解消されることは期待できません。私たちが直視すべきは、以下の逃れられない計算式です。
会社が負担する社会保険料の総額は、概算で以下のようになります。
実質負担額 = 支給額×1.155 (約15.5%)
賃上げを 10,000円 行うということは、会社にとっては 11,550円 のコスト増を意味します。この「1.550円」の差分こそが、政府のバラバラな財布を潤すための「隠れたコスト」なのです。
まとめ:荷主への「理論武装」の切り札にする
この「政府内の矛盾」という構造を知ることは、単なる知識ではありません。荷主との交渉における**「最強の言い訳(正論)」**になります。
「社長、我々も賃上げ要請に応えたい。しかし、政府の仕組み上、給与を上げれば自動的に会社負担の社会保険料も連動して跳ね上がります。これは私たちが努力で削れる経費ではなく、政府が決めた回避不能なコストなのです。」
政府がバラバラな財布で動いている以上、私たちはその「構造」を逆手に取って、荷主に対して**「自分たちだけで背負いきれる問題ではない」**ことを論理的に突きつける必要があります。
「お願い」して許してもらうのではなく、政府の構造的な欠陥も「データ」として示し、共倒れを防ぐための価格転嫁を勝ち取りましょう。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に現時点で27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉に関わってきている経験をもとに、
運送業のリアルな課題や裏話を法律と現場の両面から解説しています。
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