全国の運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。
トラック協会の会合やセミナーに参加していると、よくこんな言葉を耳にします。
「ドライバー不足と2024年問題により、これからは運送会社が荷主を選ぶ時代になる。」
確かに、深刻なドライバー不足、車両価格や燃料費の高騰、労働時間規制(改善基準告示)の厳格化を考えれば、従来の「荷主が圧倒的に優位で、運送会社を買い叩く」という一方通行の力関係が崩れつつあるのは事実です。
しかし、長年運送の現場でハンドルを握り、配車を組み、経営に携わってきた一人の人間として、私はこう感じています。
「現場の現実は、そんなに甘い話ではないのではないか?」
今回は、制度論やメディアの楽観論だけでは見えてこない「現場のシビアな実態」を踏まえ、これからの数年間で荷主と運送会社の関係がどう変わるのか、そして中小運送会社がどう生き残るべきかを現実的に考えてみます。
1. まだ「荷主を選べる」という実感はない。荷主側も余裕がない現実
「運送会社が強気に出て、条件の悪い荷主を切り捨てられる時代になった」と言われますが、現場の実感は全く異なります。
確かにドライバーの確保は困難を極め、「仕事はあるのに走らせるドライバーがいない」という状態です。
しかし一方で、荷主企業側も決して業績に余裕があるわけではありません。
原材料費の高騰、エネルギーコストの上昇、円安による輸入コスト増などに苦しんでおり、「運賃を上げてくれと言われても、右から左へ払える原資がない」という荷主も少なくありません。株価などの指標と、地方の中小荷主の台所事情には大きな温度差があります。
運送会社側も、固定費(車両代、人件費、保険料)を払うためにはトラックを遊ばせるわけにいかず、「条件が多少悪くても、背に腹は代えられず受けてしまう」という力学が今なお強く働いています。
立場が逆転したわけではなく、双方ともに苦しい「我慢比べ」が続いているのが現場の偽らざる姿です。
2. これから数年は「ダンピングと淘汰」の厳しい選別期間になる
私は、ここからの数年間は運送会社同士の価格競争がすぐになくなるとは思っていません。むしろ、よりシビアな生き残り競争(淘汰戦)が激化する可能性が高いと見ています。
荷物の総量が劇的に増えない中で、資金繰りに焦る運送会社が「空車にするよりはマシ」と、採算度外視の安値で仕事を取りにいく動きは完全には消えないからです。
荷主側も、「値上げを求めてくる既存業者」から「安値で受けてくれる他社」へ一時的に逃げるケースが起こり得ます。
💡 あわせて読みたい関連記事 運賃交渉に応じてもらえた後、徐々に仕事を他社へ切り替えられてしまうトラブルの法的解釈と自衛策については、こちらで詳しく解説しています。
3. 法制度の追い風:荷主が「責任を負う」時代へのシフト
では、「荷主を選ぶ時代」は単なる幻想なのでしょうか。 そうではありません。時間はかかるものの、確実にその方向へ外堀が埋まりつつあります。
その最大の原動力が、法律による「荷主への規制強化」です。
- 改正物流効率化法(2025年努力義務・2026年義務化): 一定規模以上の荷主・元請事業者を「特定事業者」に指定し、荷待ち・荷役時間の削減(原則2時間以内、目標1時間以内)や積載率向上を義務付け。
- 物流統括管理者(CLO)の選任義務化: 荷主企業の役員クラスが物流管理の責任者となり、不合理な運用を是正する体制を求められる。
- 標準的な運賃の引き上げとトラック新法・取適法の運用: 下請法や独占禁止法、貨物自動車運送事業法に基づき、原価割れ運賃を押し付ける悪質荷主への「働きかけ・要請・勧告・公表」の厳罰化。
これまでは「運送会社が泣き寝入りして何とかする」のが当たり前だった現場の負担に対し、「荷主側も違法リスク(社名公表等)を背負う当事者」になったのです。
4. 勝負の分かれ目は「制度の運用」と「自社の強み」
法律ができても、行政がどれだけ実効性を持って取り締まれるか(運用レベル)が最後の砦です。
しかし、確実に言えることがあります。 「法令を守り、原価を計算し、無理な運行を断る運送会社」と、「コンプライアンスを軽視して安売りを続ける運送会社」の二極化が進み、後者は5年更新制や労務規制の中で確実に立ち行かなくなります。
現在からこれからの数年間を健全な経営で耐え抜いた運送会社には、大きなチャンスが巡ってきます。悪質な事業者が市場から退場し、荷主側も「コンプライアンスを守って確実に運んでくれる会社」を死に物狂いで探さざるを得なくなるからです。
その時に選ばれる会社になるため、今からやるべきは「自社の強みの再定義」です。
- 特殊車両やクレーン、重量物などの作業技術力
- 荷待ち・荷役を短縮するための積込・運行提案力
- ドライバーの安全教育と高いモラル
- 急なトラブルへのバックアップ体制
「何でも安く運びます」という会社は、より安い会社が現れれば即座に切られます。 しかし、「この配送は〇〇運送さんに頼まないと事故や遅延が起きて困る」と言われる会社は、運賃交渉でも主導権を握ることができます。
💡 おすすめ内部リンク 取引先ごとの採算性を数値で分析し、自社のリソースをどの荷主に集中させるべきかを見極める手法はこちらです。
まとめ:「選べる立場」は、待っていても手に入らない
「運送会社が荷主を選ぶ時代」は、特効薬のように明日突然やって来るわけではありません。
厳しい競争とコスト高の中で、
- 自社の適正原価を把握し、赤字運行を少しずつ排除する
- 法改正(物流効率化法・トラック新法等)の武器を正しく使い、荷主と対等に協議する
- 価格以外の「自社ならではの価値」を磨き、新規荷主を開拓して1社依存を防ぐ
この地道な経営判断を積み重ねた会社だけが、「この条件では受けられません」と胸を張って断り、結果として「優良な荷主を選んで付き合う」という未来を手に入れることができます。
数年後の業界構造の変化を見据え、今のうちに自社の強みを棚卸しし、生き残るための基盤を整えていきましょう。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。
実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。
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