全国の運送業経営者・運行管理者の皆様、本日もお疲れ様です。
運送現場の荷役作業は、ドライバーが単独で行うこともあれば、納品先の作業員や同僚と「二人以上」で共同作業を行う場面も多々あります。
二人で作業を進めていると、無意識のうちに以下のような甘えや思い込みが生じがちです。
- 「相手も作業の流れを分かっているだろう」
- 「自分が触っているのを見ているはずだ」
- 「これくらい、わざわざ言わなくても伝わるだろう」
しかし、共同作業において「自分の見えている景色や認識」と「相手の認識」が一致している保証はどこにもありません。
今回は、厚生労働省が公開している荷台でのヒヤリハット・労災事例を踏まえ、自社の現場で実際に発生した「あおり作業での転落寸前ヒヤリハット」のリアルと、事故を防ぐための具体的なルール化についてお話しします。
1. 厚労省事例にみる「あおり」に潜む転落・墜落の危険
トラックのあおり(アオリ)は荷物の脱落を防ぐための部材であり、人が乗るための足場ではありません。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」でも、あおりに関する危険な事例が報告されています。
- 古紙収集車の事例: 荷台に乗ろうとしてあおりに手を掛けたところ、ストッパーが掛かっておらずあおりが外側に開き、作業者が転落しかけた事例。
- 4tトラックでの墜落事例: 荷締めの緩みを取るため、あおりの上に上がって作業していたところ、足を滑らせて約1.5m下のコンクリートへ墜落・負傷した事例。
「ちょっと足を掛けるだけ」「数秒だけ乗るだけ」という軽い気持ちが、骨折や頭部外傷、最悪の場合は死亡事故に直結するのが荷台作業の現実です。
2. 自社で起きたヒヤリハット:あおり解除と転落寸前の瞬間
私の会社でも、まさにこの「あおり」をめぐるヒヤリハットが発生しました。
現場で二人の作業員が荷台の荷卸し作業を行っていたときのことです。
- 作業員Aが、作業効率を上げるために荷台のあおりの固定ロックを解除した。
- しかし、Aはそのことを作業員Bに声で伝えていなかった。
- 作業員Bは、あおりがロックされていると思い込んだまま、荷台へ上がろうとあおりに足を掛けた。
- 体重がかかった瞬間、固定されていないあおりが勢いよく外側へ倒れ、Bはバランスを崩して地面へ転落しかけた。
とっさに踏みとどまったため大事には至りませんでしたが、一歩間違えれば頭から地面へ叩きつけられていてもおかしくない、極めて危険な瞬間でした。
3. 「危険な作業」と「声かけ不足」は切り分けて対策する
このヒヤリハットを振り返ったとき、「あおりに乗ろうとしたBが悪い」と個人を責めて終わらせては、根本的な再発防止にはなりません。
現場には明確に異なる2つの問題が同時に発生していました。
問題①:あおりを足場にして昇降しようとしたこと(手順・設備の不備)
大前提として、あおりに乗ること自体が安全基準違反です。 現在、労働安全衛生規則の改正により、最大積載量2トン以上のトラックにおける「昇降設備の設置」および「保護帽(ヘルメット)の着用」が事業者に義務付けられています。 アオリやタイヤに足を掛けて荷台に上らせるのではなく、トラック常備のステップや専用ハシゴ、安全な作業台を使用させる設備面の改善が必須です。
問題②:相手に影響する操作を無言で行ったこと(コミュニケーションの欠如)
もう一つの深刻な要因は、Aが「解除した事実」をBに伝えていなかった点です。 Aは「自分が外した」ことを知っていますが、Bの視界からは見えていませんでした。 «自分は分かっているから、相手も気づくだろう»という思い込みが、物理的なトラップ(罠)を作り出したのです。
💡 あわせて読みたい関連記事 道具の不備や確認不足が命取りになった事例として、荷締め具の破損を放置して起きた死亡事故の教訓もあわせてご確認ください。 👉 【内部リンク:【実体験】荷締めを外した瞬間、鋼材が滑り出した。死亡事故から学ぶ「現場のリアル」と防衛策】
4. 共同作業では「声かけ」が物理的な安全装置になる
二人以上で作業を進める際、一人の動作は必ず相方の安全を左右します。
- あおりを開ける/閉める
- ラッシングベルトやワイヤーを解除する
- シートを剥がす/引っ張る
- フォークリフトや車両を動かす
こうした場面で必要なのは、高度な技術ではありません。「相手の目を見て発する、たった一言」です。
「あおり、外します!」 「荷締め、緩めます!」 「動かします、足元いいですか?」
この一言があるだけで、相手は「あおりが開いているから触らない」「荷物が動くから死角から離れる」という回避行動を取ることができます。声かけはマナーではなく、機械のリミッターと同じ「安全装置」なのです。
特に、「ベテランと新人」「自社ドライバーと荷主先の作業員」など、普段阿吽(あうん)の呼吸が通じない組み合わせのときほど、「言わなくても分かる」は事故への直通切符になります。
5. 社内教育で徹底する「今日からのアクション」
この事例を社内や安全会議で共有する際は、以下のチェックリストをそのまま現場へ落とし込んでください。
【現場教育のポイント】
- あおりを足場・昇降設備として絶対に使用しない(専用ステップ・ハシゴを使う)。
- 荷台作業時は、ヘルメットのあご紐を正しく締めて着用する。
- 相手の安全を脅かす可能性のある操作は、事前に相手の返事を確認してから行う。
- ヒヤリハットを「ケガしなくてよかったね」で終わらせず、手順の見直しに繋げる。
【現場で徹底させる基本フレーズ】
作業前に必ず以下のコール&レスポンスを習慣化させます。
- 操作側:「〇〇を動かします(外します)!」
- 周囲側:「OK!」(安全を確認して返答)
- 操作側:動作を開始する
💡 おすすめ内部リンク ドライバーがヒヤリハットを隠さず、現場の危険を吸い上げるための組織づくりについてはこちらで解説しています。
まとめ:「当たり前のルール」を仕組みとして定着させる
今回のヒヤリハットは、幸いにも負傷者ゼロで済みました。 しかし、これは「安全だった」のではなく、「たまたま転落しなかっただけ(運が良かっただけ)」です。
- 設備と手順を守る(あおりに乗らない・昇降設備を使う)
- 相手に伝える(操作前の声かけ・指差呼称)
- 不明な点は立ち止まって確認する
特別な設備投資や難しい理屈をこねる前に、現場のこうした「小さな基本動作」を全員が確実に実践できる社内風土を作ること。それこそが、重大な労働災害から社員と会社を守る最大の防壁になります。
「言わなくても分かるだろう」を今日から捨て、確実な声かけで安全な運行・作業を徹底していきましょう。
ご安全に。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。
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