全国の運送業経営者の皆様、本日もお疲れ様です。
今回は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に掲載されている、労働災害事例を取り上げます。
少しの手順の誤りが命を奪う。これは決して他人事ではありません。私自身、過去に現場でこれと全く同じ「順番の誤り」を犯し、ヒヤリとした経験があります。現場を知る人間としてのリアルな視点から、この事故はなぜ防げなかったのか、そして自社でどう防ぐべきかを考えてみたいと思います。
1. 事例:傾斜地に駐車したトラックで起きた鋼材落下事故
まず、厚労省のサイトに掲載されている事故事例の概要です。
【事故の状況】 10tトラックに建築用鋼材(コラム材25本、約9t)を積み、約50km離れた工場まで輸送した運転者Aと助手B。到着後、工場入口前に車を寄せたのですが、左車輪は敷地内、右車輪は公道上という位置になり、トラックは右に「3.5度」ほど傾いた状態で止まっていました。
Aは荷卸し担当者の到着を待つ間、突然「荷締めワイヤーを外す」と言って一人で荷台に上り、後部→前部の順に荷締器を外しました。この時、Aは積荷の上に乗ったままでした。
外した直後、最上部の鋼材2本が滑り出し、Aはその鋼材に押し出されるように荷台から公道に転落。倒れたところに鋼材が落下し、直撃を受けて即死という痛ましい結果になりました。
2. 厚労省の分析と、現場に潜む「本当の怖さ」
厚労省が挙げている原因は次の4点です。
- トラックを傾斜地に駐車したまま荷卸し作業に入ったこと
- 荷締器を外す前に、積荷が滑り出す危険がないか確認しなかったこと
- 鋼材に防錆用の油が塗られていて滑りやすい状態だったこと
- 積卸し作業の安全な手順が、現場で徹底されていなかったこと
一つひとつは「うっかり」に見えますが、これらが重なった瞬間に人が死ぬ。これが荷役作業の恐ろしさです。
しかし、私が現場目線で最も恐ろしいと感じたのは、「荷卸し担当者の到着を待つ間」に起きたという点です。 早く仕事を終わらせたい、現場の人を待たせたくないという心理から、「良かれと思って一人で事前の段取り(荷ほどき)を進めてしまった」のだと推測できます。現場のドライバーなら誰もが陥りやすい、痛いほどよく分かる心理です。
3. 【実体験】私も同じ「順番の誤り」をやった
正直に言うと、この事例は私にとっても他人事ではありません。私自身、似たような場面を経験しています。
ある現場に到着すると、指定された駐車位置は「斜面」でした。そこにトラックを停め、レッカーで荷を吊り上げてもらう段取りでした。 私はレッカーの準備を待つ間、作業を早く進めようと「先に荷締めをほどいた」のです。しかし、ラッシングを緩めたその瞬間、荷物が斜面方向にズルズルと滑っていきました。
幸い大事には至りませんでしたが、今振り返ると、この死亡事故の被災者とまったく同じ「順番の誤り」をやっていました。玉掛けや荷卸し作業は、毎日やっているとただの「いつもの作業」になり、危険への感度が確実に鈍ります。
4. 私ならこう防ぐ。自社で徹底すべき4つのルール
自分の冷や汗をかいた経験と、今回の死亡事故事例を踏まえ、私が運行管理者なら自社で以下のルールを徹底させます。
① 傾斜地での荷卸しは、まず「車両の向き」を先に決める 平坦な場所に停め直せるならそれが一番ですが、どうしてもそれができない現場では、「どちらを向けば荷が滑らないか(下り方向にならないか)」を確認してから駐車させます。車両の向きの判断が命綱になります。
② 「ほどいてから吊る」ではなく「吊ってから、ほどく」の徹底 クレーンやレッカーで「荷を保持した(テンションをかけた)状態」を作ってから、初めて荷締めを外す。この順番を変えるだけで、荷が単独で動き出す瞬間そのものをなくせます。
③ 荷締器を外す前に、必ず荷台から離れて積荷全体を目視する 防錆油が塗られた鋼材の上や、不安定な積荷の上に乗ったままラッシングを外すのは論外です。必ず安全な足場を確保して行わせます。
④ 絶対に「一人作業」にしない(勝手な判断をさせない) 「今から外す」「異常があれば止める」と声に出し、複数人で確認してから作業に入る。これだけで、焦りによる「勝手な判断」への強力なブレーキ役になります。
「現場での『良かれと思った自己判断』が、取り返しのつかない大事故を引き起こします。ドライバーの勝手な行動を防ぎ、会社を守るための『正しい報告文化の作り方』はこちらの記事で解説しています。」
まとめ:安全教育は「知らなかった」では済まされない
こうした事故は、「知らなかった」「うっかりしていた」では絶対に済まされません。
私自身が経験したからこそ言えますが、玉掛けや荷卸し作業の危険性を軽く見ている現場は、驚くほど多いのが現実です。だからこそ、月に一度の安全会議などで、こうした「公的な事例」と「社内のヒヤリハット」を重ね合わせて、「うちの現場ならどうするか」を社員と一緒に話し合う時間を作ることが、経営者ができる最も確実な安全対策だと思っています。
現場の「慣れ」をリセットし、ドライバーの命を守る仕組み作りを続けていきましょう。
【参考資料】
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害事例(外部サイト)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=25
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。
実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。
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