運送業の経営者の皆様、本日もお疲れ様です。

2028年までに導入される見通しの「トラック運送業の5年更新制」。役員の法令試験や「連続赤字・債務超過」といった財務のNG基準など、経営者の頭を悩ませるハードルについて解説してきましたが、書類審査においてもう一つ、多くの会社がつまずくであろう「極めて高い壁」が存在します。

それが「安全投資計画」の策定と提出です。

運送業の現場で長年ハンドルを握り、管理や経営に携わってきた身として断言しますが、この書類は「これからも安全運転を心がけます」といった作文を出せば通るような、甘いものではありません。今回は、先行する貸切バス業界の審査実態から、国が求める「本物の安全投資」とは何か、そして計画書にについて解説します。

1. 「気合と根性」は評価ゼロ。国が求めるのは「具体的な金額」

更新申請で提出する「安全投資計画」において、最もやってはいけないのが精神論(気合と根性)を書いてしまうことです。

「毎朝の点呼でドライバーに安全運転を徹底させます」
「事故ゼロを目指して、社内での声がけやミーティングを強化します」

これらは現場の取り組みとしては素晴らしいですが、国(運輸局)の審査官から見れば「投資額(身銭)を1円も切っていない、ただの作文」であり、評価の対象になりません。

国が確認したいのは、「この会社は、輸送の安全を担保するために『具体的に何に、いくらお金を使っているか(使う予定があるか)』」という一点のみです。

例えば、国が認める「安全投資」とは以下のような明確な支出を指します。

  • 最新の通信型ドライブレコーダーやデジタコへの計画的なリプレイス
  • IT点呼システムやアルコールインターロック装置の導入
  • 全ドライバーへのSAS(睡眠時無呼吸症候群)スクリーニング検査の定期受診
  • 外部の専門機関(自動車教習所など)を活用した実技研修費
  • 計画的な車両の代替(新車・高年式中古車への入れ替え)や、予防整備のための高額部品の事前交換

「安全はタダではない。お金をかけて買うものだ」という前提に立てない会社は、事業を継続する能力がないとみなされます。

2. 貸切バスの審査基準から分かる「証拠(エビデンス)」の重要性

「じゃあ、適当に『毎年ドラレコ更新に〇〇万円投資します』『車両修繕に〇〇万円かけます』と書いておけばいいのか?」というと、当然そんな嘘は通用しません。

貸切バスの更新審査では、計画の妥当性を証明するために極めて厳格な「証拠(エビデンス)」の提出が求められます。

  • 過去の実績証明: これまで本当に安全投資を行ってきたかを確認するため、過去の「領収書」や「固定資産台帳」の提出が要求されます。
  • 根拠のある計画: 「予防整備ガイドラインに基づく整備サイクル表」に基づき、どの車両がいつ、何の部品交換(投資)を必要としているのか、論理的な根拠に基づいた向こう数年間の計画でなければ突き返されます。

つまり、日頃から「どのトラックにどんな整備をしたか」を適当に処理し、正確なコスト管理をしていない会社は、更新審査の土俵にすら立てないということです。

3. 最大の罠:安全投資計画と「事業収支見積書」の矛盾

さらに面倒なのが、この安全投資計画は、単体で提出して終わりではないという点です。更新申請では、向こう5年間の会社の黒字化計画を示す「事業収支見積書」とセットで審査されます

ここに、多くの運送会社が陥る「矛盾の罠」があります。

審査を通すために立派な「安全投資計画(多額の修繕費やシステム導入費)」を書いたとします。しかし、それだけの支出を事業収支見積書に計上した結果、「向こう5年間、ずっと赤字になる計画」になってしまえば、その時点でアウト(不許可)かもしれません。

逆に、黒字に見せかけるために安全投資(原価)を不自然に削った事業収支見積書を出せば、「この会社は安全を軽視している非現実的な計画だ」と見なされ、やはり突き返されます。

この矛盾をクリアする唯一の答えは何か? それは、「これだけの安全投資をしても、しっかり利益が出るだけの『適正運賃』を荷主から収受する」しかありません。安全投資計画の策定は、必然的に「運賃交渉」へと繋がっていくのです。

4. まとめ:計画を立てる前の絶対条件は「現状のコスト把握」

5年ごとの許可更新制は、「安全はお金をかけて守るもの」という国の強固な意志の表れです。

「5年先までの安全投資計画を立てろと言われても、そもそも今現在、修繕費にいくらかかっているのか正確に分からない……」 もし今、そんな「どんぶり勘定」の状態で日々の配車を回しているとしたら、非常に危険な状態です。足元の数字(現状)が分かって初めて、未来の計画(投資)を描くことができます。

まずは自社のアナログな経理やどんぶり勘定から脱却し、車両ごとのコストを「見える化」する仕組み作りから、今日着手してください。

「『コストの把握が必要なのは分かったが、大掛かりなシステムを入れる余裕はない』という方は、まずは手軽に始められる無料のExcelツールを活用してみてください。複雑な機能はありませんが、入力するだけで『どの車両にいくらかかっているか』という安全投資の基礎データがしっかりと可視化できます。」

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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