運送業の経営者の皆様、本日もお疲れ様です。
経営者や配車担当の方なら、早朝、業務終了以降に鳴る携帯の着信音に、心臓が跳ね上がった経験が一度はあるはずです。 私にとって、27年の実務経験の中で今も忘れられない「音」があります。
それは、全車両の宵積み(翌日配送分の積み込み)が無事に終わり、そろそろ帰ろうかなと思っていた18時過ぎのことでした。
1. 「明日、行きません。今日で辞めます」
受話器の向こうで、入社2年目ほどのドライバーが淡々と言い放ちました。 「えっ、明日の分、もう積み終わってるよね?」 「はい。でも、もう無理です。明日からは行きません」
「なんとか明日の朝だけお願いできないですか?」引き止める言葉も届かず、一方的に電話は切れました。 時刻は18時。多くの荷主はすでに業務を終え、協力会社も翌日の配車を完全に確定させている時間です。明日の朝一番の着時間は決まっている。そして何より、荷物は既に彼の乗るトラックの荷台の中にあります。
「バックレ(無断欠勤)」ではない。しかし、会社からすれば「積み逃げ」にも等しい、最悪のタイミングでの退職通告でした。
会社は法律上、即日解雇できないですが、無法的なドライバーは即日退職できてしまう実態があります。
2. 執念の配車:18時からのタイムリミット
そこからの記憶は、まさに戦場でした。 18時を回ってから、ピンポイントで代わりの傭車が見つかる可能性は限りなくゼロに近い。まじでどうしよう!と思いました。
私は即座に全車両の荷下ろしの場所、時間を再確認して予定表とにらめっこしました。 パズルのピースを無理やりはめ込むような、薄氷を踏む時間調整。
結局、車庫に仮置きして往復で対応可能な強行スケジュールを組むことで、なんとか1台分を捻出しました。 電話と調整に追われ、泥のように疲弊しながらも、「荷主への穴だけは防いだ」という経営者としての意地とプライドだけで立っていました。
3. なぜ、彼は「宵積み後」に牙を剥くのか
この凄惨な事件の後、私は痛感しました。 ドライバーの心理として、宵積みを終えることは会社への「最後の手向け」であり、同時に「自分は今日のやることをやった」とでも思ったのかな?とか後々いろいろ考えが巡りましたが。
結局、退職する人の理由、気持ちは考えてもわからないのです
しかし、経営者や配車係等残された人間からすれば、これはテロに近い行為です。
- 残された社員への尋常ではない負担増
- 配車担当者の精神的摩耗
- 代替車両確保や無理な運行によるコスト増・事故リスク
職業選択の自由、「辞める自由」は誰にでもあります。しかし、規律のない無責任な辞め方は、残された仲間と会社を確実に壊します。
4. あの日の私に、行政書士として伝えたいこと
私が長年いた現場を離れ、行政書士になったのは、まさにこうした「現場の理不尽」から経営者を守りたいと強く思ったからです。 もし今の私が、あの日の絶望している自分にアドバイスするなら、こう伝えます。
経験上、完全に防ぐことは難しいですが、下記は被害を最小限にする方法です。
- 「就業規則」の整備 突然退職によって会社に損害が出た場合、損害賠償の可能性があることを明記しておくこと。就業規則は単なる「紙」ではなく、会社を守る盾になります。
- 「誓約書」のフル活用: 入社時の段階で「退職時の引き継ぎの重要性」を法的に再認識させること。
- 「仕組み」での防御: ドライバー個人の「良心」や「情」に頼るのではなく、万が一に備えた予備車の確保や、協力ネットワークを平時から構築しておく「行政書士×実務」の危機管理体制を作ること。
※就業規則の修正等は運送業専門の社会保険労務さんへご相談してください。
まとめ:善意だけに頼る経営からの脱却
運送業は、どこまで行っても「人」が動かす仕事です。 だからこそ、従業員の「善意だけ」に頼る経営は、時に牙を剥き、会社を致命傷に追い込みます。
ルールという名の「盾」を持って、大切な会社と、文句を言わずに残ってくれている真面目なドライバーを守る。 あの18時過ぎの絶望を、二度と他の経営者に味わわせたくない。それが私の、運送業専門の行政書士としての原点です。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送業の現場と経営に現時点で27年間携わる現役の行政書士。
運送会社で配車・営業・運賃交渉に関わってきている経験をもとに、
運送業のリアルな課題や裏話を法律と現場の両面から解説しています。
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