運送業の経営者の皆様、本日もお疲れ様です。

2025年6月、貨物自動車運送事業法の改正が成立しました。内容は多岐にわたりますが、運送会社の経営者にとって「会社の存続」を左右する最も重大な変更がこれです。

「一度取れば一生有効」だった運送業の許可が、2028年までに『5年ごとの更新制』になります。

これまで許可証は、よほどの重大事故や悪質な法令違反がない限り、取り消されることはありませんでした。赤字が続いても、書類の管理が甘くても、社長が法律を忘れていても、許可そのものは生き続けました。

その大前提が、根底から崩れ去ります。 今回は、この更新制がどれほど重大で恐ろしいものか、そして生き残るために今すぐ経営者がやるべきことをお話しします。

1. 貸切バス業界で何が起きたか?「6社に1社」が消えた現実

トラック業界と同じ道を先に歩んだのが、貸切バス業界です。 2016年の軽井沢スキーバス事故を受け、2017年から許可更新制が導入されました。制度開始から第1巡目(5年間)の実績データが、国土交通省から公表されています。

  • 更新期限を迎えた事業者:5,895者
  • そのうち市場から退出した事業者:972者(退出率:16.48%)

実に「6社に1社」が消えました。これは推測や噂ではなく、国交省「軽井沢スキーバス事故対策フォローアップ会議」の公式データに基づく確定値です。

ここで重要なのは、更新制導入前と後で事業者数がどう変わったかという点です。 国交省の許認可状況データを確認すると、導入前の5年間(2012〜2017年)は事業者数がほぼ横ばいでした。ところが導入後の5年間(2017〜2022年)で、約21%も減少しています。自然廃業がほとんどなかった業界が、制度を境に急速に縮小したのです。

しかも最も注目すべきは、退出した972者の大半が「国からの審査で不許可になった(落とされた)」わけではないという点です。 財務要件を満たせない、膨大な書類が作れない、そして何より「後継者不足」「法令試験に受かる自信がない」——そういった事業者が、審査を受ける前に自ら申請を諦めて廃業したというのがリアルな実態です。

2. トラックの更新審査で「求められること」の予測

では、トラックの更新制では具体的に何を見られるのでしょうか。先行する貸切バスの制度をモデルにすると、最低限以下の提出と証明が求められるはずです。

  • 安全投資計画の策定(ドラレコ導入や車両修繕等の計画)
  • 事業収支見積書(向こう数年間の黒字化計画)
  • 直近の財務状況の健全性(連続赤字・債務超過がないこと)
  • 法令遵守の状況(行政処分歴や点呼・日報の管理)
  • 👉【最重要】経営者(常勤役員)の「法令試験」の受験

ここで、多くの経営者が絶望する2つの壁が出現します。

一つ目の壁は「経営者自身の法令試験」です。 貸切バスの更新制では、更新のたびに社長(常勤役員)が自ら最新の法令試験を受け直す必要があります。コンサルタントに丸投げして書類だけを整えても、「社長本人の知識」がなければ許可は下りません。「昔取ったから大丈夫」「現場は配車マンに任せているから」は一切通用しなくなるのです。

二つ目の壁は「適正運賃の収受」です。 安全投資計画や収支見積書を提出する際、原価を割った運賃で走り続けている会社が「健全な収支計画」を示せるでしょうか。 今回の法改正には、更新制と同じタイミングで「適正原価を下回る運賃での受託禁止」も盛り込まれています。

安く受けて生き残る戦略は、制度上も経営上も完全に通用しなくなる。これが今回の法改正の本質です。 「適正な運賃を荷主から収受し、それを原資として安全対策に投資できる会社であること」。これが、更新審査を通過するための大前提になってくると私は予測しています。

3. 【警告】更新制度は「すでに始まっている」

「まともにやっている会社には関係ないだろう」「2028年からの話なら、まだ先でいいや」 そう思っている経営者がいたら、非常に危険です。

なぜなら、更新審査では「直近5年間の実績」が見られるからです。 もしあなたの会社の更新時期が2028年に設定された場合、審査の対象となるのは「2023年から2028年までの5年間」の記録です。

つまり、審査は事実上、今日この瞬間すでに始まっています。 制度が施行されてから慌てて体裁を取り繕っても、過去5年分の点呼記録・運転日報・決算書を遡って修正することは不可能です。

4. これからの時代を「生き残る」ためにどうするべきか

私自身、運送業の現場に27年以上携わってきた肌感覚で言えば、トラック業界の退出率は貸切バスの16%を上回る可能性が十分あると見ています。約6万の事業者の中には、財務管理ができていない零細企業や、後継者不在で廃業のタイミングを探っている事業者が相当数含まれているからです。

しかし、これは逆に言えば「最大のチャンス」でもあります。 同業者が一定数市場から退出することは確実です。きちんと許可を維持し続けた会社には、荷主や取引先が集中し、圧倒的な追い風が吹きます。

生き残るために、経営者が今すぐやるべきことは以下の3つです。

  • ① 適正原価の把握と運賃交渉 どんぶり勘定を捨て、自社の正確な原価を算出し、荷主と適正運賃の交渉を今すぐ始めてください。原価を把握できている会社だけが、根拠を持って運賃を提示できます。

「どんぶり勘定のままでは、事業収支見積書すら作れません。まずは自社の車両ごとの『本当のコスト』を可視化することから始めてください。」

  • ② 「書面化」による自衛 口約束を廃止し、附帯作業や待機時間を明確にした契約書を交わしてください。

「2025年4月からは、そもそも『運送契約の書面化』自体が法律で義務付けられます。書面なしは即法令違反となるため、早急な対策が必要です。」

  • ③ 日常的なコンプライアンス(帳票)の徹底と勉強 点呼記録や日報など、いつ監査が来ても適正な評価を受けられる体制を構築し、経営者自身も改めて最新の法令を学び直してください。

「とりあえず許可を取って走る」時代は終わりました。これからは「維持し続ける体力と知恵」が問われます。

現状の管理体制や、数年後の更新に向けた準備に不安がある方は、お気軽にご相談ください。現場を知る行政書士として、実態に即したアドバイスをいたします。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送業の現場と経営に27年間携わる現役の行政書士。

運送会社で配車・営業・運賃交渉・ドライバー管理・安全管理などに携わりながら、現在は行政書士として運送業を中心に情報発信を行っています。

実際の運送会社経営で経験してきた失敗や課題、現場で起きているリアルな問題を、法律と実務の両面から分かりやすく解説しています。

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