運送業の経営者の皆様、本日も安全運行、本当にお疲れ様です。 ニュースで「トラックが対向車線にはみ出し…」「運転手が意識を失っていた可能性」といった見出しを見るたび、背筋が凍る思いをされているのではないでしょうか。
実際、国土交通省の統計によれば、職業運転者の健康起因性事故は3年間で815件。そのうちトラックが25%を占め、なんとトラック運転者の58%が運転中に「意識消失」をきたしています。
これが現実です。「ウチの奴らは元気だから」という根拠のない自信は、今日この瞬間から捨てなければなりません。
1. 【理想】行政や法律が求める「健康管理」のハードル
まず、行政書士として「建前(法律)」の話をします。 国土交通省は、SAS(睡眠時無呼吸症候群)対策マニュアルを改訂し、事業者に対して極めて高いレベルの管理を求めています。
- SAS(睡眠時無呼吸症候群)への対応: スクリーニング検査の実施や、疑いがある場合の受診徹底を求めています。
- 行政処分の厳罰化: SASを放置して事故を起こした場合や、健康診断の結果を無視して乗務させた場合、「車両停止」を含む厳しい行政処分の対象となります。
- 多額の賠償リスク: 健康起因の事故でも、予見が可能だったと判断されれば、会社には数千万〜数億円の損害賠償、経営者には刑事責任が問われる可能性があります。
「法律だから守れ」と言うのは簡単です。しかし、現場を預かる身としては、こう言いたくなるはずです。
2. 【現実】「俺たちは医者じゃない!」現場の悲鳴
「健康診断は年2回受けさせている。でも、その先の管理まで俺たちがやるのか?」 これが経営者の本音でしょう。
- ドライバーが隠す: 「病気が見つかったら乗務を外される(給料が減る)」と恐れ、自覚症状があっても隠すドライバーは多いものです。
- 管理する時間がない: 2024年問題への対応、日々の配車、トラブル処理。その合間に、全ドライバーの血圧や睡眠の状態まで把握し続けるのは、物理的に困難です。
- 検査費用への抵抗感: SASのスクリーニング検査などを全社一斉に行うには、まとまったコストがかかります。
しかし、ここで思考を止めてしまうのが、一番の経営リスクです。
3. 【現実解】会社を守るための「重点防衛ライン」の引き方
私たちは医者ではありませんが、「経営のプロ」です。全員を完璧に診るのではなく、「リスクが高い場所」から効率的に守りを固める戦略をとりましょう。
① 「ピックアップ法」で優先順位をつける
全社員一斉が無理なら、まずは「リスク因子」を持つドライバーから優先的にSASスクリーニング検査(数千円程度で可能です)を受けさせましょう。
- 肥満傾向(BMIが高い)
- 激しいいびきの指摘がある
- 血圧が高い
- 50歳以上のベテラン
② 補助金をフル活用して「脳ドック」を受けさせる
脳疾患の早期発見に欠かせない「脳ドック」についても、年度ごとに各都道府県のトラック協会から手厚い補助金が出ているケースがほとんどです。 これを使わない手はありません。補助金には年度ごとの予算枠がありますので、確認の上、ぜひ大切なドライバーに受診させてあげてください。 「手続きが面倒そう」と思われるかもしれませんが、申請自体は各協会の案内通りに進めれば、ご自身で簡単に完了できる内容になっています。会社を守るための経費として、賢く活用しましょう。
ちなみに脳ドックはGマーク認定の際の加点にもなります。
③ 「体調不良を言える」という空気こそが最大の武器
経営において重要なのは、ドライバーが**「今日は少しめまいがする」と、正直に配車担当に言える環境作り**です。 「無理して走って事故を起こし、会社が潰れるリスク」と、「一日休ませて配車を組み直す手間」。どちらが重いか、経営者がその基準を明確に示すことが、最大の「意識消失」対策になります。
まとめ:健康管理は「福利厚生」ではなく「損害保険」である
ドライバーの健康管理に投資することは、単なる「優しさ」ではありません。 それは、**「たった一回の事故で会社を倒産させないための、最も安上がりな損害保険」**なのです。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。
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