運送会社の経営者皆様、本日もお疲れ様です。

「ちょっと注意しただけで『それ、パワハラですよ』と言い返される」 「『じゃあ、辞めますわ』と脅されるのが怖くて、正当な指導もできない」 「配車係がドライバーの顔色ばかり伺って、メンタル不調で休職してしまった……」

今、運送業界の現場で、こんな悲鳴が上がっています。 上司から部下への嫌がらせである「パワーハラスメント」に対し、部下から上司へ行われる嫌がらせ、通称**「逆パワハラ(逆ハラ)」**です。

特に慢性的なドライバー不足にあえぐ運送業界では、「辞められたら困る」という経営側の弱みにつけ込み、業務命令を無視したり、過度な要求を突きつけたりするケースが急増しています。

今回は、会社を内側から崩壊させかねない「逆パワハラ」の実態と、経営者が自分自身と会社を守るための具体的な対抗策を解説します。


なぜ、運送業で「逆パワハラ」が起きやすいのか?

ハラスメントといえば「立場の強い者(上司)から弱い者(部下)へ」というイメージがありますが、厚生労働省の定義にある「優越的な関係」とは、職務上の地位だけを指すのではありません。

運送業において、ドライバーが「優越的な関係(=強い立場)」になり得る背景には、以下の3つの特殊事情があります。

  1. 圧倒的な「人手不足」 「俺が辞めたら、このトラック誰が乗るの? 穴が開くよ?」という事実が、ドライバーにとって最強の武器になっています。
  2. 専門知識・技術の優位性 「このルートの納品手順は俺しか知らない」「大型に乗れる人間は限られている」といった、業務の属人化が、管理者を弱気にさせます。
  3. 「パワハラ」という言葉の独り歩き 「気に入らない指示=パワハラ」と拡大解釈し、スマホで録音するポーズを見せて管理者を萎縮させるケースが増えています。

これって逆パワハラ? 現場でよくある3つの事例

以下のような言動が繰り返され、業務に支障が出ている場合、それは単なる「反抗」ではなく、ハラスメントに該当する可能性があります。

ケース1:業務命令の拒否(サボタージュ)

配車係が「明日は〇〇へ行ってほしい」と指示しても、「そのルートはダルいから嫌だ」「割に合わない」「はぁ、」と正当な理由なく拒否する。代わりの人間がいないことを知っていて、自分の好みの仕事しか選り好みしない。

ケース2:過度な要求と脅し

「給料を上げないと、労基にタレ込むぞ」「トラック協会の巡回指導で余計なことを言うぞ」などと、会社のコンプライアンス上の弱点(あるいは虚偽の事実)を盾に、不当な待遇改善を要求する。

ケース3:精神的な攻撃

運行管理者に対して、「配車のセンスがない」「お前じゃ話にならない、社長を出せ」と執拗に罵倒したり、無視したりして、管理者を精神的に追い詰める。


「指導」を諦めたら、会社は終わる

逆パワハラを恐れるあまり、経営者や管理者が「腫れ物に触るような対応」を続けると、どうなるでしょうか?

  • 安全管理の崩壊: 速度超過や点呼未実施などを注意できなくなり、重大事故のリスクが高まる。
  • 組織の私物化: 「あの人はワガママが通る」という空気が蔓延し、真面目なドライバーのモチベーションが下がり、離職する。
  • 管理者の離職: 板挟みになった配車係や運行管理者がメンタルダウンしてしまう。

「人手不足だから仕方ない」と放置することは、組織の癌(ガン)を育てているのと同じです。


経営者が取るべき「3つの防衛策」

では、どうすればこの理不尽な状況に対抗できるのでしょうか。 感情的にならず、「仕組み」と「記録」で戦うことが鉄則です。

1. 「就業規則」を最強の武器にする

「言うことを聞かないならクビだ!」と叫ぶのはNGですが、**「就業規則に基づき懲戒処分を行う」**のは経営者の正当な権利です。

  • 「正当な業務命令に従わない場合」
  • 「職場の秩序を乱す言動があった場合」 これらが懲戒事由として就業規則に明記されていますか? そして、そのルールを周知していますか? ルールブックがなければ、審判(経営者)は笛を吹けません。

※重要:専門家への相談 なお、就業規則の作成や変更、労働基準監督署への届出は**社会保険労務士(社労士)**の独占業務です。法的に有効で、かつ「逆パワハラ」にも対抗できる強い規則を作るためにも、自己流で済ませず、必ず顧問の社労士先生にご相談ください。

2. 「安全指導」はパワハラではないと知る

厚労省の指針でも、**「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指導」**はパワハラには当たらないと明記されています。 特に運送業の場合、「速度超過」「点呼時の態度」「アルコールチェック」などの安全に関わる指導は、人の命を守るために不可欠なものです。 「これは安全確保のための業務命令だ」と自信を持って伝えましょう。

3. 「記録」を残す(録音・日報)

逆パワハラを行う従業員とのやり取りは、必ず記録に残してください。

  • いつ、どこで、誰が、何を言ったか。
  • どのような業務命令に対し、どう拒否したか。
  • ボイスレコーダーでの録音も有効です(ハラスメントの証拠としての秘密録音は、裁判等で認められるケースが多いです)。

「言った言わない」の水掛け論になった時、最後にあなたを守るのは「記録」だけです。


まとめ:会社を守ることは、真面目な社員を守ること

「ドライバー様」と崇める必要はありません。 会社と従業員は、雇用契約に基づいた対等な関係です。

理不尽な要求を繰り返す1人のドライバーに振り回されて、会社全体が疲弊してしまっては本末転倒です。 毅然とした態度で対応することは、結果として、ルールを守って真面目に働いてくれている**「大多数の善良なドライバー」**を守ることにつながります。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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