運送業の経営者の皆様、毎日お疲れ様です。

飲酒運転は、会社の存続そのものを脅かす、極めて悪質で危険な犯罪行為です。

しかし、多くの経営者やドライバーが本当の意味で恐れるべきは、「勤務中にこっそり飲む」というような、分かりやすい違反行為だけではありません。

現場で最も多く、そして最も深刻な問題となっているのは、「前日の夜に飲んだ酒が、翌朝の点呼までに抜けきらない」という、『二日酔い』による飲酒運転です。

運転者が「あと一杯だけなら大丈夫だろう」と判断を誤ったその瞬間から、築き上げてきた企業の信用、財産、そして何よりも多くの人々の生命が危険に晒されます。

本稿では、飲酒運転がもたらす本当の恐ろしさについて、経営者が知るべきリスクを徹底解説します。

1. 法律の前に、失う「荷主の信用」

警察に捕まる(罰則)のは、もちろん重大な結果です。

しかし、運送業の経営者にとって、それと同じか、あるいはそれ以上に恐ろしいリスクがあります。それは、**「荷主の信用を一瞬で失う」**というリスクです。

昨今、コンプライアンス意識の高い荷主企業では、受付や入門ゲートで、トラックドライバーに対するアルコールチェックを実施するケースが増えています。

もし、そこで貴社のドライバーからアルコールが検知されたら、どうなるでしょうか。

警察沙汰になる以前の問題として、そのドライバーは**「構内への出入り禁止」、そして貴社は「取引停止」**という、経営の根幹を揺るがす、最も重いペナルティを科される可能性が極めて高いのです。

法律以前に、ビジネスパートナーとして「安全を任せられない会社」という烙印を押されること。これこそが、飲酒運転がもたらす、第一の経営リスクです。

2. 飲酒による運転能力の著しい低下

アルコールには脳の働きを麻痺させる作用があり、特に理性や判断をつかさどる大脳の活動を低下させます。

「二日酔い」で本人が「酒は抜けた」と感じていても、体内にはアルコールが残っており、安全運転に必要な能力は確実に低下しています。

  • 気が大きくなり、速度超過などの危険な運転をする。
  • 車間距離の判断を誤る。
  • 危険の察知が遅れる。
  • 危険を察知してからブレーキペダルを踏むまでの時間が長くなる。

本人の自覚がないまま、これらの能力が低下した状態でトラックを運転すること。それが「二日酔い運転」の最大の恐ろしさです。

3. アルコール処理の「あと一杯」の罠:分解にかかる時間

「寝れば抜ける」「水を飲めば大丈夫」といった飲酒に関する誤った認識は、安全運行を脅かす大きな要因です。

アルコールが体内で分解・処理される時間の目安として、純アルコール20gを「1単位」とし、1単位の分解に約4時間かかるという考え方があります。

アルコール1単位(純アルコール20g)の目安:

  • ビール(5%): 中びん 1本 (500ml)
  • 日本酒(15%): 1合 (180ml)
  • ウイスキー(43%): ダブル 1杯 (60ml)
  • 焼酎(25%): 0.6合 (約110ml)

もし、深夜0時までにビール2本と日本酒1合(合計3単位)を飲んだ場合、その分解には約12時間かかり、翌日の正午まで体内にアルコールが残る計算になります。

【最重要】分解を遅らせる要因

この「4時間」という目安は、あくまで健康な状態での平均です。実際には、アルコールの分解は、多くの要因によってさらに遅くなります。

  • 薬の服用: 普段から血圧の薬などを服用している場合、体は薬の分解を優先するため、アルコールの分解は後回しにされ、通常よりも大幅に遅くなります。
  • 睡眠: 睡眠中は、肝臓のアルコール分解活動が低下するため、起きている時よりも分解が遅くなります。
  • 個人差: 年齢、体重、体質、その日の体調によっても、分解速度は全く異なります。

「水を多く飲む」「サウナで汗を流す」といった方法でアルコールが早く抜けることはありません。アルコールが抜ける時間を早めることを考えるのではなく、乗務前日は酒量を控えるよう、厳しく指導する必要があります。

4. 会社を破滅させる「行政処分」と「罰則」

飲酒運転事故が発生した場合、その責任は運転者個人に留まらず、運行管理体制の不備として事業者に直接、破滅的な影響を及ぼします。

違反の種類運転者に対する罰則(一部)事業者に対する行政処分(一部)
酒酔い運転5年以下の懲役または100万円以下の罰金違反営業所に対して14日間の事業停止
酒気帯び運転3年以下の懲役または50万円以下の罰金違反営業所に対して7日間の事業停止
飲酒運転を下命・容認初違反で100日車、再違反で200日車

飲酒運転による重大事故を引き起こし、かつ事業者が指導監督義務違反(点呼の不備など)をしていた場合、事業者はさらに重い処分を受け、最悪の場合、事業許可の取消しに至る可能性もあります。

5. 経営者が取るべき予防策:アルコール依存症の早期発見

飲酒運転の背景には、運転者自身のアルコール依存傾向が潜んでいることがあります。経営者には、アルコール検知器によるチェック体制の構築と同時に、従業員を依存症から守る「支援体制」の構築も求められています。

  • 点呼とアルコール検知器の徹底: **乗務前後の点呼でアルコールチェックをしっかりやるのは当然ですが、**本人が自覚できていないアルコール残存(二日酔い)を検知するためにも、高精度なアルコール検知器による厳格な実施が、全ての基本です。
  • スクリーニング検査(AUDIT等)の導入: アルコール依存症の疑いを簡易に把握するため、定期健康診断などに合わせて、AUDIT(オーディット)などのスクリーニング検査を導入することが有効です。
  • 会社全体の風土改革と支援体制: 「飲酒運転に対する甘い企業体質」が、重大事故の温床となります。依存症の疑いがある従業員を叱責するのではなく、専門医の診断を受けさせ、治療をサポートする(配置転換や勤務時間変更など)。会社全体で、従業員の健康と命を守るという強い意識改革が必要です。

まとめ

「あと一杯だけなら」という運転者の気の緩みが、荷主の信用を失い、会社に莫大な損害と取り返しのつかない行政処分を招き、事業の継続を不可能にします。

経営者には、飲酒運転のリスクを正しく理解し、科学的な知見に基づいた管理体制と、依存症の早期発見・治療を促す支援体制を構築する、重い責任が求められているのです。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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