運送業の経営者の皆様。本日もお疲れ様です。

「2024年問題? 残業代が増えるだけの話でしょ?」 「ウチは歩合制だから関係ないよ」

もし、経営者であるあなたがそう考えているなら、今すぐその認識を改めてください。 2024年4月から完全施行された「改善基準告示(改正)」は、単なる労働時間のルールではありません。

これを守れない会社には、運輸局から**「車両停止処分」**という、実質的な営業停止命令が下されます。

今回は、行政書士の視点から、労務管理(社労士領域)の話ではなく、**「会社の許可とトラックを守るための監査対策」**として、新ルールの重要ポイントと現場での防衛策を解説します。


「車両停止」の引き金! 監査で狙われるポイント

まず、恐怖の現実をお伝えします。 運輸局の監査(巡回指導)において、ドライバーの拘束時間オーバー(改善基準告示違反)が見つかった場合、どうなるか。

国土交通省の行政処分基準では、以下のように定められています。

  • 1件でも違反があれば: 10日車の車両停止処分
  • 2件以上の違反があれば:20日車の車両停止処分
    • (※「10日車」とは、トラック1台を10日間止める、という意味です)

たった一人のドライバー、たった一度の配車ミスが、虎の子のトラックを止め、売上を蒸発させるのです。 しかも、監査では**「点呼の不備」「日報の記載ミス」などもセットでチェックされます。これらが積み重なれば、30日車、60日車……と処分は雪だるま式に増え、最悪の場合は「事業停止(30日間全車ストップ)」「許可取消し」**に至ります。

「労基署に怒られるだけ」では済まないのが、運送業の厳しい現実です。


運行管理者が死守すべき「2024年改正」の防衛ライン

では、現場の運行管理者(配車係)は、具体的にどこの数字を死守すればいいのでしょうか。 細かい特例はたくさんありますが、まずは以下の**「絶対に超えてはいけないデッドライン」**を頭に叩き込んでください。

1. 「休息期間」は9時間が絶対下限

これが今回の改正で最も厳しい変更点です。 これまで「8時間」あればOKだった休息期間(勤務終了から翌日の始業までの時間)が、**「継続9時間を下回らない(努力目標11時間)」**に変更されました。

  • 旧ルール: 終了22:00 → 翌6:00開始(8時間)でセーフ
  • 新ルール: 終了22:00 → 翌6:00開始はアウト(行政処分対象)

「1時間くらい…」という甘えは通用しません。この1時間の差が、配車組みを劇的に難しくします。

2. 「1ヶ月の拘束時間」は284時間以内

原則として、1ヶ月の拘束時間(労働時間+休憩時間)は284時間以内に抑えなければなりません。 (※労使協定を結べば年6回まで最大310時間まで延長可能ですが、それでも上限は厳しくなっています)

月末になって「あと5時間しか走れない!」と焦らないよう、月半ばでの進捗管理が必須です。


監査で「ウソ」は通用しない。デジタコと日報の整合性

「日報を手書きで修正して、休憩時間を水増しすればいいだろう」 そんな昭和の裏技は、今の監査には通用しません。

監査官は、「運転日報」と「デジタコ(タコグラフ)の記録」を完全に突き合わせます。 デジタコが動いている時間に「休憩」と書いてあれば、即座に**「虚偽記載」**として指摘され、さらに重い処分が待っています。

「事実は変えられない。変えられるのは未来の配車だけ」 これを肝に銘じてください。


現場でできる「防衛策」:アナログ管理が会社を救う

高価なデジタコや勤怠システムを入れても、それを見る人がいなければ意味がありません。 会社を守るために、明日からできる「アナログですが最強の管理術」を紹介します。

1. 「1日12時間」を超えたら赤ペンで丸をする

改善基準告示の原則は13時間ですが、ギリギリを攻めると事故や渋滞で即アウトになります。 社内ルールとして**「拘束時間が12時間を超えたら、点呼簿や日報に『赤ペン』で大きく丸をつける」**ようにしてください。

特に、この業界は土曜日の配送が当たり前の会社も多いでしょう。土曜に出るということは、その分、拘束時間は積み上がります。 「赤丸がついた翌日は、早上がりさせる」「週の後半で調整する」といった**「1週間単位での帳尻合わせ」**を行わないと、月末に慌てても手遅れです。

2. 「有給休暇5日」を戦略的に消化させる

「うちは忙しいから有給なんて無理」と言っていませんか? 今は法律で「年5日の有給取得」が義務化されていますが、これを逆手に取りましょう。

有給を取らせることは、単純に**「月の総拘束時間を減らす」**こと直結します。 監査で「拘束時間が長すぎる」と指摘されないためにも、閑散期や土曜日などを活用して、強制的にでも休ませることが、結果として「違反のリスク(=車両停止のリスク)」を下げることになります。

3. 「例外」を正しく記録する

事故渋滞や異常気象、フェリーの欠航などで時間が伸びてしまった場合、それは「予期し得ない事象」として、拘束時間の例外扱い(ペナルティ除外)にできる可能性があります。 ただし、それには**「客観的な証拠(公的機関の渋滞情報など)」**と日報への正確な記録が必要です。「なんとなく混んでいた」では認められません。


まとめ:コンプライアンスは「会社を守る盾」

改善基準告示の遵守は、ドライバーの健康を守るためだけではありません。 あなたの会社の「許可」と「信頼」を守るための、経営上の最重要課題です。

「知らなかった」「うっかりしていた」でトラックを止められてからでは遅いのです。 新しいルールを正しく理解し、賢く配車を組むことで、厳しい時代を生き抜きましょう。

※ご注意 本記事は、貨物自動車運送事業法および運輸局の監査基準(行政処分基準)の観点から解説しています。 36協定の締結や就業規則の変更、残業代計算などの具体的な労務管理については、社会保険労務士(社労士)の先生にご相談ください。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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