運送業の経営者の皆様、本日もお疲れ様です。

「人件費も燃料代も上がっているのに、さらに社会保険料の通知を見て溜息が出る……」

そんな日々をお過ごしではないでしょうか。

国はかつて、「厚生年金の保険料率は18.3%で引き上げを終了した」と宣言しました。確かに、年金単体の料率は2017年から変わっていません。

しかし、現実に私たちの通帳から引き落とされる金額は、年々確実に増えています。

今回は、この「18.3%の罠」を解き明かし、2026年現在、私たちが直面しているコストの正体を直視しましょう。


1. 「他の窓口」が次々と開いている現実

厚生年金の窓口が閉まった一方で、他の保険料率がサイレントに上昇しています。特に今年、2026年4月からは新しい負担も始まっています。

  • 介護保険料率の引き上げ: 40歳以上の社員が対象の介護保険料。2025年の1.59%から、2026年度には**1.62%**へと引き上げられました。
  • 「子ども・子育て支援金」の新設: 2026年4月からスタートしたこの制度。これまでの拠出金に加え、さらに会社負担が増える仕組みです。
  • 健康保険料率の維持: 医療費の増大に伴い、協会けんぽの平均料率は**10%近い水準(平均9.9%)**で高止まりしています。

2. 恐怖の「標準報酬月額」スライド

料率(%)が変わらなくても、**「掛ける対象の数字」**が上がれば、支払額は増えます。

社会保険料は、給与そのものではなく「標準報酬月額」という等級で決まります。

昨今の深刻な人手不足、そして最低賃金の劇的な引き上げ。これに伴いドライバーの総支給額が上がれば、自動的に等級がスライドし、会社負担額も跳ね上がります。

さらに、2025年の法改正により、厚生年金の標準報酬上限が65万円から75万円へと段階的に引き上げられることが決まりました。ベテラン勢や運行管理者の給与が高い会社ほど、この「上限突破」によるコスト増が直撃します。

3. 「賃上げ」の裏に隠された「隠れ増税」

荷主から「賃上げしろ」と言われ、頑張ってドライバーの給与を上げたとします。

しかし、給与を1万円上げれば、会社負担の社会保険料もセットで約1,550円(約15.5%)増えるのが現実です。

賃上げ額×1.155 = 会社が実際に支払うコスト

この「1.155」という係数を無視して運賃交渉をすれば、賃上げした分だけ会社が赤字を掘るという、笑えない事態に陥ります。


まとめ:経営者の「勘」をアップデートせよ

「厚生年金は18.3%で固定だから、社保負担は変わらない」というのは、もはや幻想です。

2026年現在、実質的な社会保険料の会社負担は、各種拠出金を合わせると給与の16%に迫る勢いです。

拙著『【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。』でも強調しましたが、社会保険料は「福利厚生」ではなく、もはや**「公租公課(税金)」**と同じ性質の固定費です。

この「見えないコスト」を正確に原価に算入し、荷主に対して「これだけの公的負担が増えている。だから運賃を上げざるを得ない」とデータで突きつける。

それこそが、今の時代を生き抜く経営者の「義務」なのです。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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