「忙しいから、健診はまた今度でいいか」 「ドライバーが『面倒くさい』と言うから、無理強いはできないなぁ」

もし、社内に1人でも健康診断を受けさせていないドライバーがいるなら、それは時限爆弾を抱えているのと同じです。

「健康診断なんて、個人の健康の問題でしょ?」と思っていませんか? 違います。運送業において、健康診断の未受診は、「行政処分(車両停止)」の対象となる重大な違反です。

平成30年の基準改正により、国は健康管理に対してかつてないほど厳しい姿勢を見せています。 今回は、いただいた「トラック運送事業者のための健康起因事故防止マニュアル(全ト協)」等の資料に基づき、「未受診」が会社に及ぼす法的リスクについて解説します。


「未受診」だけで車両が止まる! 厳格化された行政処分

まず、経営者が知っておくべき一番怖い数字をお伝えします。 監査(巡回指導)において、健康診断の未受診が発覚した場合のペナルティです。

  • 未受診者が一部いる場合: 初回から警告、または車両停止処分
  • 未受診者が3名以上(または半数以上)いる場合: 「40日車」の車両停止処分

たったこれだけで、トラックを止められてしまうのです。 さらに恐ろしいのは、もし健康診断を受けさせていないドライバーが、運転中に脳疾患や心臓疾患などで**「健康起因事故」**を起こした場合です。

この場合、**「80日車」**という極めて重い処分が下される可能性があります。 (※再違反等の要件による)

「たかが健康診断」と甘く見ていると、会社の屋台骨が折れることになります。


なぜ国はここまで厳しくなったのか?

背景には、トラック業界における**「健康起因事故」の高止まり**があります。 全産業と比較しても、運送業は脳・心臓疾患による労災認定(過労死等)が非常に多く、運転中の突然死や意識消失による重大事故が後を絶ちません。

国土交通省のデータによると、健康起因事故の死因の約8割は**「心臓疾患」「脳疾患」「大動脈瘤」**です。これらは、ある日突然起こるものではなく、高血圧や異状の予兆があるケースがほとんどです。

だからこそ、国は**「予兆を見逃した(=健診を受けさせなかった)会社は、事故の共犯である」**という厳しいスタンスをとっているのです。


「受けさせる義務」は会社にある

よくある言い訳に、「受診するように言ったが、本人が行かなかった」というものがあります。 しかし、労働安全衛生法およびトラック運送事業法において、健康診断の実施義務は**「事業者(会社)」**にあります。

  • 雇入時健康診断: 採用したら必ず実施。
  • 定期健康診断: 常時選任する運転者に対し、1年以内ごとに1回実施。
  • 特定業務従事者(深夜業): 深夜走行が多いドライバーは、6ヶ月以内ごとに1回実施。

「本人が拒否した」は通用しません。業務命令として受診させ、就業時間内に受診させる体制(費用負担も含め)を整えるのが経営者の責任です。

そしてできることなら、最上級の健康診断を受けさせてあげてください。


コンプライアンスだけじゃない「最大のリスク」

行政処分も怖いですが、最大のリスクは**「人命」と「賠償」**です。

もし、健診未受診のドライバーが運転中に発作を起こし、歩行者の列に突っ込むような事故が起きたらどうなるでしょうか。

被害者への賠償責任はもちろん、会社は「安全配慮義務違反」として、遺族からも損害賠償請求を受けることになります。さらに、「ブラック企業」としてマスコミに報道され、荷主からの取引停止、ドライバーの離職……。

数千円の健診費用をケチった代償が、数億円の損害と会社の倒産になるのです。


まとめ:受診率100%は「会社の守り」

健康診断を「コスト」と考えないでください。 それは、行政処分から会社を守り、事故リスクからドライバーを守り、そして経営者自身を守るための**「最強の保険」**です。

「忙しい」は理由になりません。 まずは、直近の健康診断結果一覧を出し、未受診者がいないか今すぐチェックしてください。それが、安全経営の第一歩です。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

▼運送業の経営に関するご相談はこちら [お問い合わせ]

▼ホームページ[行政書士岩本哲也事務所]

▼「運賃交渉」を学びたい方へ 適正原価等、深く解説した書籍を執筆しています。「どんぶり勘定」を卒業し、自信を持って経営判断を下したい方は、ぜひご一読ください。 [【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。]