運送業の経営者の皆様、毎日お疲れ様です。 2025年に可決された「トラック新法」(改正貨物自動車運送事業法)について、多くの情報が飛び交っています。「書面交付が面倒だ」「多重下請けが制限される」といった個別のルール変更に、意識が向いているかもしれません。

しかし、それらは全て、この法改正がもたらすたった一つの、最も重大な変化のための布石に過ぎません。

その重大な変化とは、**「事業許可の5年ごとの更新制」**の導入です。

これは、単なる「5年ごとの書類提出」ではありません。 これまで一度取得すれば半永久的だった事業許可に、**明確な「有効期限」**が設けられたことを意味します。そして、これから始まる許可更新の審査では、これまでとは比較にならないほど厳しく、事業者の「経営の質」そのものが問われることになります。

特に、以下の3つのポイントを改善できていない事業者は、数年後の猶予期間が終了した時点で、許可が更新されず、市場から淘汰される可能性が極めて高いと、私は見ています。

1. 重点チェック項目①「ドライバーの低賃金」

なぜ、ドライバーの賃金が許可更新に関係するのか。 それは、今回の「トラック新法」が作られた**最大の目的が、「ドライバーの処遇改善」**だからです。

国は、法律の力で、ドライバーの長時間労働を是正し、生活できるだけの適正な賃金を確保しようとしています。 もし、許可更新の時点で、貴社のドライバーの賃金が業界平均や最低賃金を下回るような状態であれば、それは**「法律の目的に協力していない事業者である」**と見なされます。処遇改善の努力が見られない事業者の許可を、国が更新する義理はありません。

2. 重点チェック項目②「連続赤字決算」

「赤字でも、なんとか資金繰りが回っていればいい」…そんな時代は、終わりました。 トラック新法は、私たち運送事業者に、「適正な原価」に基づいた運賃を収受することを、事実上の「法的義務」として課しています。

許可更新の際に決算書を提出し、もし「連続赤字」が続いていたとしたら、監査官は何を思うでしょうか。 「この会社は、法律が定める『適正な原価』を計算していない、あるいは、それを荷主に主張する努力を怠り、不当に安い運賃で走り続けているのではないか?」 そう判断されるのは、必然です。

赤字決算は、もはや「景気が悪い」という言い訳ではなく、「法令遵守の努力を怠っている」という、経営者自身の怠慢の証拠として扱われるリスクがあるのです。

3. 重点チェック項目③「事業実績報告書」などの提出書類

監査や巡回指導が入っていないから安心、ではありません。 運輸支局は、私たちが毎年提出している「事業報告書」や「事業実績報告書」といった書類から、貴社の経営状態を完全に把握しています。

  • 売上に対して、燃料費や人件費の割合は適正か?
  • 車両の稼働状況はどうか?
  • 重大事故の報告は上がっていないか?

これらの提出書類こそが、貴社の経営実態を示す「通信簿」です。この通信簿の点数が、許可更新の可否を判断する、最も重要な資料となるのです。

結論:猶予期間は、もう始まっている

「5年更新制」は、我々運送事業者に突きつけられた、**明確な「タイムリミット」**です。

ドライバーの賃金を見直し、 「どんぶり勘定」を卒業し、「適正な原価」を計算し、 赤字経営から脱却する。

この数年間の猶予期間の間に、これらの経営改善を断行できなかった事業者は、許可更新ができなくなり、合法的に市場から淘汰されます。

「まだ先の話だ」と傍観している時間はありません。 生き残るための戦いは、もう始まっているのです。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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▼書籍 この記事のテーマである「トラック新法」について、重要な点の解説をした書籍を執筆しています。「どんぶり勘定」を卒業し、自信を持って経営判断を下したい方は、ぜひご一読ください。 [【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。]