運送業の経営者の皆様、本日も本当にお疲れ様です。
「今日の宵積、延期になりました。すいません。」
朝一番、あるいは積み込みの数時間前、荷主からの電話一本でその日の売り上げが消える。
配車を組み直し、空いた車両をどうにか埋めようと奔走する……。そんな「理不尽なキャンセル」に、これまで何度泣かされてきたでしょうか。
「いつもの付き合いだから」「次の仕事で色をつけてもらうから」
そう自分に言い聞かせて飲み込んできたその損失、実は貴社の経営を静かに、しかし確実に蝕んでいます。
今回は、私の著書でも詳しく解説した**「改正貨物自動車運送事業法(トラック新法)」**という武器を使い、キャンセル料を正当な「ビジネスの対価」として請求するための戦略をお伝えします。
1. そもそも、なぜ「キャンセル料」を取りにくいのか?
結論から言えば、それは**「取引のルールが曖昧だったから」**に他なりません。
日本の運送業界では、長らく「電話一本」での依頼が当たり前でした。しかし、口約束だけの取引では、いざキャンセルが発生した際に「いくら払うのか」「いつまでの連絡なら無料なのか」といったルールが存在しません。
結果として、弱い立場にある運送会社が、
- ドライバーの拘束時間(人件費)
- 準備した車両の機会損失
- 無駄になった燃料費や高速代といった実損をすべて被ることになっていたのです。これはビジネスとして、あまりにも不健全です。
2. 令和7年4月施行「書面化義務」があなたの盾になる
この「泣き寝入り」の時代を終わらせる大きな転換点が、**令和7年4月1日から施行された改正貨物自動車運送事業法(第12条)**です 。
この法律は、運送契約を締結する際、契約内容を明らかにする書面(または電磁的記録)を荷主と運送事業者が**「相互に」**交付することを義務付けました。
この書面に、以下の内容を盛り込むことが私たちの「権利」になったのです。+2
- 運賃(運送の対価)とは別建ての料金設定: 荷役や附帯業務、そして「特別な費用」の明文化です 。
- 契約内容の明確化: つまり、「もしキャンセルになったらどうするか」というルールを、事前に合意しておく法的根拠ができたということです 。
3. 「運送基本契約書」こそが、最強の矛になる
キャンセル料を確実に請求するためには、スポットのやり取りだけでなく、取引のベースとなる**「運送基本契約書」**を結び直すことが不可欠です 。
私の著書で提供している契約書の雛形では、第9条などで「運賃・料金の見直し」や「協議」について定めています 。ここでのポイントは、**「キャンセル料は罰金ではなく、確保していたリソース(人・車)に対する正当な予約料である」**という考え方です。
契約書に盛り込むべき「三段構え」のルール
- 当日キャンセル: 運賃の100%相当額
- 前日キャンセル: 運賃の 50% 相当額
- それ以前: 無料、もしくは事務手数料程度
これはあくまで参考ですが、これらをあらかじめ契約書に明記し、捺印をもらっておく。これだけで、いざという時の交渉の難易度は劇的に下がります。
4. 荷主への「切り出し方」のコツ
「そんなことを言ったら、仕事が切られるのではないか?」
その不安はよく分かります。私も経営者ですから。
しかし、今は**「コンプライアンス遵守」**を掲げない企業は生き残れない時代です。
交渉の際は、以下のように切り出してみてください。
「社長、今回のトラック新法の改正で、私たち運送会社にも**『書面での契約確認』が法律で義務付けられました。** 荷主様が勧告や公表の対象にならないよう、この機会にキャンセル時のルールも含めて、しっかりと書面で整えさせてください」
あくまで「荷主様のリスクを減らすため」「法律を守るため」というスタンスを取ること。これが、角を立てずに正当な要求を通すための「プロの交渉術」です 。
5. 「お願い」する経営は、今日でやめにしませんか?
「標準的な運賃」はあくまで経過措置です。国が守ってくれる期間には限りがあります。
最終的に会社を守れるのは、国の基準ではなく、**自社で算出した「適正な原価」と、それを裏付ける「契約書」**だけです。
当日キャンセルされても「仕方ない」と笑って済ませるのは、もう終わりにしましょう。
あなたが日々、汗水垂らして維持している「輸送力」という価値を、もっと大切にしてください。
正当な対価を求めることは、ドライバーの生活を守り、引いては日本の物流を支えることに直結しているのですから。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。
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▼「運賃交渉」を学びたい方へ 適正原価等、深く解説した書籍を執筆しています。「どんぶり勘定」を卒業し、自信を持って経営判断を下したい方は、ぜひご一読ください。 [【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。]