運送業の経営者様、日々の運行管理、本当にお疲れ様です。 燃料費の高騰やドライバー不足への対応に追われる中、2023年10月から、私たちの現場の安全に関わる**重要な「規則」**が改正・施行されていることをご存知でしょうか?

それは、労働安全衛生規則で定められた**『昇降設備』の設置義務化**です。「ウチは大型車じゃないから大丈夫」と思っていても、実はこの改正で対象が大きく拡大されています。

この記事では、忙しい経営者の皆様のために、「何が変わったのか?」「何をすべきか?」「もし対応を怠ったらどうなるのか?」という疑問に、専門家の視点から分かりやすくお答えします。

そもそも、なぜ昇降設備の設置が「義務」になったのか?

背景にあるのは、後を絶たない労働災害です。特に、トラックの荷台からの墜落・転落事故は、時にドライバーの命を奪う重大な災害に繋がります。

今回の義務化は、労働安全衛生規則(安衛則)の改正によるものであり、国が本腰を入れて「運送業の労働安全」を確保しようという強い意志の表れです。これは、ドライバーを守ることはもちろん、会社の評判や持続可能な経営体制を築く上で、避けては通れない重要な取り組みなのです。

「知らなかった」では済まされない!義務化の具体的な内容

今回の法改正で最も注意すべき点は、義務化の対象が大きく広がったことです。

対象となるトラックは?

2023年10月1日から、昇降設備の設置義務があるのは以下の車両です。

  • 最大積載量2トン以上の貨物自動車
    • これまでは5トン以上が対象でしたが、2トン以上5トン未満の中型・準中型トラックも新たに対象となりました。
  • 上記以外でも、作業床の高さが1.5mを超える場合
    • 車両の種類に関わらず、荷台の上や積まれた荷の上など、地面からの高さが1.5mを超える場所で作業する場合は、原則として昇降設備の設置が必要です。

どんな設備が必要?

「昇降設備」とは、具体的に以下のようなものを指します。

  • トラックに備え付けの昇降用ステップ
  • 持ち運び可能な踏み台やはしご
  • テールゲートリフター(中間で止めてステップとして使う場合)

ただし、ただ設置すれば良いわけではありません。重要なのは、ドライバーが安全に昇り降りできることです。特に、手や足をかけるグリップなどを使い、**「三点支持」(両手両足のうち3点で体を支えること)**が可能な構造であることが望ましいとされています。

【最重要】もし対応を怠ったらどうなる?(罰則)

では、もしこの義務を怠ってしまった場合、経営者にはどのようなリスクがあるのでしょうか。これは単なる行政指導に留まりません。

罰則の根拠と内容

労働安全衛生法 第119条に基づき、昇降設備の未設置など、事業者が講じるべき危険防止措置を怠った場合、以下の罰則が適用される可能性があります。

  • 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金

会社(法人)も処罰の対象に

さらに注意すべきなのが、「両罰規定」(労働安全衛生法 第122条)です。 これは、現場責任者などの従業員が違反行為を行った場合、その行為者個人だけでなく、事業者である法人(会社)や事業主に対しても、50万円以下の罰金刑が科されるという規定です。

「知らなかった」「現場に任せていた」では通用しません。刑事罰は、会社の信用を大きく毀損する、極めて重大な経営リスクなのです。

まとめ:ドライバーの安全は、会社の未来そのものです

今回の昇降設備義務化は、一見するとコスト増に感じるかもしれません。 しかし、その本質は**「ドライバーの安全」という最も重要な経営資源を守るための投資**です。

  • 対象は最大積載量2トン以上のトラック
  • 違反すれば、経営者と会社に刑事罰のリスク
  • 安全な設備で「三点支持」の徹底を

この記事を参考に、ぜひ明日からでも自社のトラックの状況を確認し、万全の対策を講じてください。それが、大切な従業員と会社の未来を守る、経営者の重要な責務です。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也(いわもと てつや)

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、「きれいごと」で終わらない、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

[行政書士岩本哲也事務所]