運送業の経営者の皆様、毎日お疲れ様です。

近年、大型トラックの車輪が走行中に外れ、後続車や歩行者に深刻な被害を及ぼす「車輪脱落事故」が、依然として高い水準で発生しています。外れたタイヤは、その重さとスピードで「走る凶器」と化します。

この事故は、ドライバーの操作ミスではなく、100%「整備不良」です。

そして、その責任の矢印は、最終的に「ドライバー」でも「整備士」でもなく、「経営者」と「整備管理者」に突き刺さります。

今日は、この車輪脱落事故がなぜ起きるのか、そして万が一起こしてしまった場合に、会社がどれほど重い「行政処分」を受けることになるのか、その恐ろCい実態を、現場と法律の両面から徹底的に解説します。


なぜ事故は「冬」と「左後輪」に集中するのか?

車輪脱落事故は、1年の中で**「冬(スタッドレスタイヤへの交換時期)」**とその直後に集中して発生します。

なぜか?

答えは単純で、事故の**9割以上が「タイヤ交換時の作業ミス」**によって引き起こされているからです。国土交通省の調査でも、主な原因は「整備不良」であり、その背景には以下の3つの「不備」が挙げられています。

  1. 清掃・給脂の不備:ボルトやナット、ホイールの接合面にサビやゴミが残ったまま締め付けてしまう。適切な給脂(潤滑油の塗布)がされていない。
  2. トルクの不備:トルクレンチを使わず、インパクトレンチの「感覚」だけで締め付けており、締め付けトルクが不足している(または過剰)。
  3. 増し締めの不備:最も重要な**「交換後50〜100km走行後の増し締め」**が実施されていない。

特に、事故が集中するのが**「左後輪」**です。これは、道路の構造(左側が低い)や左折時のねじれ、右折時の遠心力など、常に左輪に大きな負荷がかかるため、緩みが発生しやすいのが原因とされています。


「ウチは大丈夫」が一番危ない。事故原因の「当事者」は誰か?

「そんな初歩的なミスをするのは、素人だけだろう」 そう思うかもしれません。

しかし、国土交通省の調査は、もっと厳しい現実を我々に突きつけます。 タイヤ脱着作業の「当事者」を調べたデータでは、事故を起こした事業者の多くが、整備工場やタイヤ業者に任せる**「外注」ではなく、「自社(ドライバーや整備管理者)」**でタイヤ交換を行っていたのです。

コスト削減のために「自家整備」に切り替える。その判断は経営として理解できます。 しかし、その結果として、正しい知識や工具(特にトルクレンチ)が徹底されないまま「いつものやり方」で作業が行われ、事故のリスクが格段に高まっているのです。

「プロに任せる金がもったいない」という数万円の節約が、数千万円の賠償と、会社の未来を失う結果に直結します。


経営者が知るべき「行政処分」の重さ

ここからが本題です。 もし、自社(車両総重量8トン以上)のトラックが、ホイール・ボルトの折損やナットの脱落で車輪脱落事故を起こした場合、経営者と整備管理者はどうなるのか。

これは「過積載」や「過労運転」の比ではありません。

ステップ1:初違反

  • 20日車車両使用停止処分。

いきなり、です。「警告」などではありません。事故を起こしたその1台が、即座に20日間停止させられます。

ステップ2:再違反(3年以内)

  • 40日車車両使用停止処分。

「またか」では済まされません。処分が倍になります。

ステップ3:運命の日(3年以内に2回目の事故)

ここが、我々経営者と整備管理者の「クビ」がかかる最大のポイントです。

  • 3年以内に再び車輪脱落事故を起こした場合、国土交通省は当該営業所の**「整備管理者の解任命令」**を発動します。

「解任命令」です。 これは、運行管理者の「指導」などという生易しいものではありません。会社が「クビにしろ」と国から命令されるのです。


「整備管理者 解任」が引き起こす、恐怖の連鎖

「整備管理者が解任? 代わりを立てれば済む話だろう」 そう思った経営者の方。甘いですよ。

この「解任命令」が、いかに恐ろしいか。その「死への連鎖」を説明します。

  1. 整備管理者が解任される
    • → 命令により解任された者は、2年間、整備管理者の資格を失います
  2. 営業所に整備管理者が「不在」になる
    • → すぐに後任を選任しなければ、「整備管理者選任違反」という重大なコンプライアンス違反状態に陥ります。
  3. 「管理者不在」の営業所はどうなるか
    • → 整備管理者を選任していない違反営業所は、**「30日間の事業停止」**処分を受けます。
  4. そして、会社は「死」を迎える
    • → 30日間の事業停止処分を受けたにもかかわらず、改善が見られない(=管理者を置けない)場合、最終的には**「許可の取り消し」**へと進みます。

これが、たった1本のホイール・ナットの緩みから始まる、倒産へのシナリオです。 国は、不適切なタイヤの脱着・保守管理を**「整備管理者の職務怠慢」**とみなし、その責任を厳しく問う姿勢を明確にしています。


会社を守るために、今すぐやるべき「現実解」

では、どうすればこの最悪の事態を防げるのか。 「気合を入れて締めろ」といった精神論では無意味です。法律と現実に即した「仕組み」を作るしかありません。

  1. 「自家整備」のやり方を、整備管理規程に明記する 国土交通省は、整備管理者の役割として「タイヤ脱着作業や増し締めなどの保守管理を実施、または整備工場に実施させること」を明確に求めています。 もし自社で交換作業を行うなら、「誰が」「いつ」「どの工具で」「どの手順で」「いくつで締め付けたか」を明記した**「タイヤ交換作業要領」**を整備管理規程に盛り込み、全員に徹底させてください。
  2. 「作業管理表(エビデンス)」を必ず作成・保存する これが最も重要です。 行政処分には「事業者の関与がなく、点検整備が確実に行われている証明があった場合を除く」という一文があります。 事故後、会社を守る唯一の盾は「我々はやるべきことをやっていた」という**「証拠(エビデンス)」だけです。 「タイヤ脱着時の作業管理表」を作成し、作業日時、作業者、トルクレンチの数値、そして「増し締め実施日」**を必ず記録・保存してください。
  3. 「プロ(外注)」のコストを「保険」と考える 自社での完璧な作業管理と記録が難しい、あるいは「そこまで手が回らない」というのが現場の本音ではないでしょうか。 その場合、コストがかかってもタイヤ交換はすべて「プロ(整備工場やタイヤ専門業者)」に外注するのが、最も賢明な経営判断です。 事故未発生の事業者は、外注の割合が高いというデータもあります。 数万円の外注費をケチった結果、20日車(数十万〜数百万円の逸失利益)の処分を受けるなど、馬鹿げています。外注費は「コスト」ではなく、「会社を守るための保険料」です。
  4. 「日常点検」の精度を上げる 最後はドライバーの仕事です。運行前に、ホイール・ボルトやナットから「サビ汁」が出ていないか、緩みがないかを目視やハンマーで確認する。特に雨や雪の後は、緩みが発生しやすいため、左後輪を中心に重点的に点検するよう、厳しく指導を徹底してください。

まとめ

車輪脱落事故は、起こした瞬間に「運が悪かった」では済まされない、**明確な「経営の失敗」**です。 行政処分は、その「ずさんな管理体制」に対して厳しく下されます。

「整備管理者の解任」という最悪のカードが切られれば、会社は一気に倒産への坂道を転がり落ちます。

「まだ締めただけでは不十分」「増し締めまでがタイヤ交換」

この常識を、経営者、整備管理者、そして全ドライバーが共有し、作業の「記録」を徹底すること。それこそが、会社を、そして社員の生活を守る、唯一にして最強の「現実解」です。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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