「普通に走っていただけなのに、いきなり前に入られて急ブレーキを踏まれた!」 「後ろからパッシングされて、怖くて車線を譲った」
こんな経験、プロドライバーなら一度や二度ではないはずです。 しかし、ここでカッとなってやり返したり、クラクションを鳴らし返したりしたら、その瞬間、あなたも**「犯罪者」**になる可能性があります。
令和2年の道路交通法改正により、「あおり運転(妨害運転)」は厳罰化されました。 一発で免許取り消しになるだけでなく、最悪の場合、会社ごと**「事業停止処分」**に追い込まれるリスクさえあります。
今回は、プロドライバーが「あおり運転」の加害者にならないための心構えと、被害者になりそうな時に身を守る「防御運転」の技術について解説します。
「一発免消」だけじゃない! 会社も潰す「妨害運転罪」の破壊力
まず、あおり運転(妨害運転)のペナルティがどれほど重いか、数字で直視しましょう。
1. ドライバーへの罰則(妨害運転罪)
- 交通の危険のおそれ(車間距離不保持、急ブレーキ等):
- 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
- 違反点数 25点(一発で免許取り消し、欠格期間2年)
- 著しい交通の危険(高速道路で停止させる等):
- 5年以下の懲役 または 100万円以下の罰金
- 違反点数 35点(一発で免許取り消し、欠格期間3年)
事故を起こしていなくても、あおり運転と認定されただけで、そのドライバーは最低2年間、ハンドルを握れなくなります。
2. 会社への行政処分(ここが重要!)
もし、自社のドライバーがあおり運転を行い、公安委員会から通知があった場合、会社が「適切な指導監督を行っていなかった」と判断されれば、以下の行政処分が下されます。
- 3日間の事業停止処分(重大事故の場合は7日間)
「たった3日」ではありません。全車両が止まるのです。その損害額と、荷主からの信用失墜は計り知れません。もはや「個人の資質の問題」では済まされないのです。
プロが陥りやすい「無自覚あおり」の罠
「自分はあおり運転なんてしないから大丈夫」 そう思っているドライバーほど危険です。大型トラックの特性上、「普通に運転しているつもり」でも、周囲からは「あおられた」と誤解されやすいのです。
誤解されるパターン1:車間距離
トラックの運転席は視点が高いため、前車との距離が実際よりも開いているように感じがちです。しかし、乗用車から見れば、巨大な鉄の塊がバックミラーいっぱいに迫ってくる恐怖は相当なものです。 **「自分が思う『安全な距離』の1.5倍」**空けるくらいで、ようやく一般ドライバーは安心します。
誤解されるパターン2:車線変更
大型車は加速が鈍いため、追い越し車線に出た後、なかなか元の車線に戻れないことがあります。これが後続車には「わざとブロックしている」と受け取られ、トラブルの引き金になります。
「あおり運転」をさせない! プロの防御運転テクニック
では、理不尽な挑発を受けた時、プロはどう対処すべきか。 答えは**「戦わないこと」**です。
1. 「譲る」が最強の防御
後ろから急いでいる車が来たら、意地を張らずに左車線に入り、先に行かせましょう。「負けるが勝ち」です。先に行かせてしまえば、もう視界に入れる必要もありません。
2. 「アンガーマネジメント」を取り入れる
カッとなったら、6秒数えて深呼吸してください。 「相手はトイレに急いでいるんだな」「家族が危篤なのかもしれない」と、勝手にストーリーを作って同情してやるのも一つの手です。 同じ土俵に立ってはいけません。あなたはプロです。
3. 窓を閉め、ドアロックして「110番」
もし執拗にあおられ、停止させられそうになったら? 絶対に車から降りてはいけません。窓を閉め、すべてのドアをロックし、迷わず110番通報してください。 「警察を呼ぶのは大げさかな」と迷う必要はありません。それがあなたと会社を守る最善の行動です。
4. 「ドラレコ」をアピールする
「ドライブレコーダー録画中」のステッカーは、想像以上に効果があります。後続車に「証拠が残る」と意識させるだけで、無謀な運転を抑制できます。
経営者がやるべき「指導」とは?
点呼の際、「あおり運転すんなよ!」と言うだけでは不十分です。 具体的な行動指針を示してください。
- 「車間距離」の基準を決める(例:高速道路では白線○本分あける)。
- 「ドラレコ映像」を使った教育(ヒヤリハット事例の共有)。
- 「いざという時の対応マニュアル」(警察への通報手順など)の配布。
そして何より、「会社は理不尽なトラブルからドライバーを守る」という姿勢を見せることが、ドライバーの精神的な余裕につながります。
まとめ:ハンドルを握る「プライド」の持ち場所を変えよう
「ナメられたくない」「割り込まれたら許せない」 そのプライドは、公道では捨ててください。
真のプロドライバーのプライドとは、**「どんな状況でも感情を乱さず、荷物を安全・確実に届けること」**です。
あおり運転の加害者にも被害者にもならない。その「スマートな運転」こそが、あなたの免許を守り、家族を守り、そして会社の未来を守るのです。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。
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