「もう日本人ドライバーの採用は限界だ…」 深刻化するドライバー不足を前に、多くの経営者様が、最後の手段として「外国人ドライバーの雇用」を検討されているのではないでしょうか。
確かに、労働力不足を補う魅力的な選択肢に見えます。しかし、その裏には、文化や言語の壁だけではない、運送業特有の深刻なリスクが潜んでいます。そして、本当に備えるべきは、自社で今すぐ外国人を雇用すること以上に、「大手運送会社が教育した優秀な外国人ドライバー」が、数年後の労働市場に現れるという未来です。
この記事では、安易な外国人雇用がもたらすリスクと、変化する未来を生き抜くために「今すぐ始めるべき準備」について、専門家の視点から深く解説します。
安易な直接雇用に潜む、6つの経営リスク
まず、自社で外国人ドライバーを直接雇用する際に、経営者が直面する可能性のある、具体的なリスクを直視しましょう。
- 事故やクレームを報告しない可能性 言語の壁や文化の違いから、軽微な物損事故や荷主からのクレームを「報告すべきこと」と認識せず、問題を抱え込んでしまうケースがあります。なぜなら、母国では「これくらいは自分で解決すべきこと」という文化背景があるかもしれず、報告・連絡・相談という日本のビジネス文化が身についていない場合があるからです。発見が遅れることで、会社の信用問題に発展する恐れがあります。
- 高度なクレーム対応ができない可能性 運送業では、単に荷物を運ぶだけでなく、荷主や納品先との円滑なコミュニケーションが不可欠です。具体的には、納品時間の遅れに対するお詫びや、荷物の状態に関する専門的な説明など、複雑な状況判断と丁寧な言葉遣いが求められる場面です。言語能力が障壁となり、クレームをさらに拡大させてしまうリスクが考えられます。
- ある日突然、出社しなくなるリスク より良い条件を求めて、あるいは単純なホームシックから、何の連絡もなく突然出社しなくなる、という話は残念ながら珍しくありません。これは、日本の「終身雇用」的な価値観とは異なり、より良い労働条件を求めて転職することへの心理的ハードルが低い場合があるためです。担当していた運行に突然穴が空き、代替ドライバーの緊急手配などで、事業計画に大きな支障をきたします。
- 日本人以上に厳格な法令遵守が求められる 労働時間や賃金、社会保険の加入など、外国人材の雇用には、日本人従業員以上に労働関連法規の厳格な遵守が求められます。なぜなら、これらの労務管理状況は、彼らの「在留資格の更新」に直接影響するため、行政のチェックもより厳しくなるからです。些細な管理ミスが、貴重な労働力を失うという経営上の大問題に直結しかねません。
- 新人教育に想定以上のコストがかかる 日本語での専門用語(例:「宵積み」「ドッキング」など)の指導、日本の複雑な商慣習や交通ルールの徹底など、教育にかかる時間とコストは、日本人ドライバーの比ではありません。特に安全教育は、危険予知トレーニング(KYT)の内容を正しく理解してもらうなど、一切の妥強が許されない部分であり、通訳を介するなどの追加コストが発生する可能性もあります。
- 高価な特殊車両の窃盗リスク 最悪のケースとして、悪意を持った人材が、数千万円もする大型トラックや特殊車両の情報を外部に流し、窃盗団と結託する可能性もゼロではありません。これは、生活基盤が不安定な外国人材が、反社会的勢力から金銭的な誘惑を受けやすいという側面も考慮に入れるべきだからです。性善説だけでは乗り切れない、高度なリスク管理が求められます。
では、今から何を準備すべきか?
これらのリスクを考えると、潤沢な資金力や教育体制、そして高度な労務管理ノウハウを持たない中小運送会社が、今すぐ未経験の外国人を直接雇用するのは、得策とは言えないかもしれません。
私たちが本当に備えるべき未来。それは、資金力と人材が豊富な大手運送会社が、これらのリスクを全てクリアした優秀な外国人ドライバーを育て上げ、彼らが労働市場に供給される日です。
その時、コンプライアンス意識が低く、安全・労働環境が整っていない会社は、優秀なドライバー(日本人、外国人問わず)から選ばれなくなり、淘汰されていくでしょう。 そうならないために、今すぐ取り組むべき準備は2つです。
1. コンプライアンス意識のアップデート
「トラック新法」時代を生き抜くためにも、まずは自社のコンプライアンス体制を総点検しましょう。具体的には、労働時間の管理システムは適切か、未払残業代は発生していないか、社会保険は全員が適正に加入しているか、といった基本的な法令遵守を徹底することです。これが、将来の優秀な人材を惹きつけるための最低条件となります。
2. 第三者認証の取得による「働きやすさ」の証明
将来、「特定技能」の在留資格を持つ外国人ドライバーを雇用するには、「Gマーク(安全性優良事業所認定)」または「働きやすい職場認証制度」のいずれかの認証を取得していることが必須条件となります。
これは、国が「外国人材を受け入れる企業は、安全面や労働環境面で、客観的な基準をクリアしているべきだ」と考えているからです。
ここで重要なのは、認証の取得そのものをゴールにしないことです。認証取得のプロセスを通じて、自社の安全管理体制や労働環境を本質的に見直し、より高いレベルへと引き上げ、社内にその文化を根付かせること。その先を見据えた取り組みこそが、将来、国籍を問わず優秀なドライバーから「選ばれる会社」になるための、非常に価値のある投資となります。
まとめ
外国人ドライバーの雇用問題は、単なる労働力不足の問題ではありません。数年後の日本の運送業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めた、大きな構造変化の序章です。
来るべき未来に備え、自社の経営基盤(コンプライアンスと、第三者から認められるレベルの安全性・労働環境)を盤石なものにしておくこと。それこそが、変化の波を乗りこなし、持続可能な経営を実現するための、最も確実な一手なのです。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、「きれいごと」で終わらない、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。
▼運送業の経営に関するご相談はこちら [行政書士岩本哲也事務所]
▼Gマーク取得、その前に。
Gマークの取得は、多くの経営者が目指す素晴らしい目標です。しかし、私はいつもこう考えています。「順番が大切だ」と。形だけを整えて取得するGマークに、本当の価値はありません。事実Gマークを取得して数年で廃業していった会社も知っています。
Gマークは、日々の経営改善を積み重ね、「経営に余裕が出来て初めて考えるべき事案」です。そして、その経営改善の出発点は、たった一つ。自社の本当のコストを、正確に把握することです。
私の書籍では、そのための具体的なノウハウ、つまり「どんぶり勘定」から完全に脱却し、データという武器を手に経営を行うための手法を、余すところなく解説しています。まずは足元を固め、本当の意味で強い会社を作りたい。そう願う経営者の方にこそ、手に取っていただきたい一冊です。 [【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。]
 
			 
						