「ついでに、あの棚に並べておいてよ」 「配送終わったら、こっちの荷物のラベル貼りも手伝って」

運送業の経営者皆様。お疲れ様です、現場のドライバーから、このような報告を受けていませんか? そして、「まあ、これくらいならサービスでやってやるか……」と、見て見ぬふりをしていませんか?

はっきり言います。その「ついで仕事」、すべて「タダ働き」です。 そして、契約書に記載のないこれらの作業を無償で強要することは、今や**「違反原因行為」**として、国の監視対象(トラックGメンの摘発対象)になっています。

「お客様だから断れない」という時代は終わりました。今回は、国が明確に「これは運送契約外の作業(=金を取るべき仕事)」と認めている具体的なパターンと、それを是正するための交渉術を解説します。


国が名指し!「違反」認定される附帯業務の4大パターン

国土交通省が配布しているトラックGメンの資料には、「契約にない附帯業務」として、以下の具体的な作業例がイラスト付きで警告されています

これらを無償で行わせることは、ドライバーの長時間労働を招く要因として、荷主側に責任が問われます

1. 棚入れ・棚卸し

  • 「倉庫内の棚に貨物を入れる」
    • ただ軒先に降ろすのではなく、倉庫の奥まで運び、所定の棚にきれいに並べる作業。これは運送ではなく「庫内作業」です。

2. 仕分け作業

  • 「運送終了後の貨物を方面別等に分ける」
    • トラックから降ろした後、配送先別や種類別に仕分ける作業。本来は荷主側(倉庫側)がやるべき仕事です。

3. ラベル貼り・検品

  • 「貨物に値札などのラベルを貼る」
    • これは完全に「流通加工」の領域です。ドライバーは職人であって、工場のライン作業員ではありません。

4. 横持ち・縦持ち(移動)

  • 「積み下ろし場所から貨物を移動させる」
    • トラックが着けられない場所から、台車などで長距離を移動させる、あるいはエレベーターで上階へ運ぶ(縦持ち)作業。

これらは全て、本来の「運送(A地点からB地点への移動)」とは異なる**「別の役務」**です。これを「運賃込み」でやらせるのは、レストランで「食後の皿洗いも客にやらせる」ようなものです。


なぜ「タダ働き」がなくならないのか?

最大の原因は、**「契約の曖昧さ」にあります。 多くの運送契約は、「運賃:〇〇円」としか書かれておらず、「どこからどこまでが運送会社の仕事か」という「作業範囲」**が決められていません。

だからこそ、荷主の現場担当者は「ドライバーさんがいるんだから、手伝ってもらおう」と、悪気なく(あるいはコスト削減のために)作業を押し付けてくるのです。

しかし、改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月完全施行)では、この曖昧さを許さないルールが導入されます。

「運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む。)等について記載した書面による交付等を義務付け」

つまり、「附帯業務をやるなら、その内容と料金を契約書(書面)に明記しなさい」というのが法律の命令なのです。書面にない作業をさせること自体が、コンプライアンス違反のリスクとなります。


「書面化」こそが最強の防御

では、どうすればこのタダ働き地獄から抜け出せるのか? 答えはシンプルです。「書面」を盾にするのです。

ステップ1:現状の「タダ働き」をリストアップする

ドライバーにヒアリングし、現場で発生している附帯業務(棚入れ、仕分け、長時間待機など)を全て洗い出してください。

ステップ2:標準運送約款を武器にする

国土交通省の「標準貨物自動車運送約款」では、運送の対価(運賃)と、積み込み・取り卸し・附帯業務の対価(料金)は**「別建て」**であることが前提です。 「国の約款では、この作業は別料金になっています」と伝えるのが第一歩です。

ステップ3:契約書(または覚書)を巻き直す

荷主に対して、「改正トラック法で、作業内容を書面化することが義務付けられました」と切り出してください。 そして、**「作業範囲、運送料金、作業附帯料金をそれぞれ分けて契約を締結」**することを提案します

もし荷主が「金は払えない」と言ったら? 「では、その作業はドライバーにはさせられません(契約外なので)」と断る正当な権利が生まれます。


トラックGメンに通報されるリスクを荷主に伝える

それでも無理難題を押し付けてくる荷主には、リスクを提示しましょう。

「契約にない附帯業務」は、トラックGメンの重点監視項目であるという事実です

「最近、トラックGメンの調査が厳しくて、ウチも作業内容の記録を国に求められるかもしれません。御社にご迷惑をかけないためにも、契約内容を明確にしておきたいのです」

こう伝えれば、まともな企業の担当者なら無視できません。実際に、荷主への「働きかけ」や「要請」は、すでに1000件以上実施されています


まとめ:ドライバーを守れるのは経営者だけ

「附帯業務」や「長時間の待機」を安易に受けることは、ドライバーの拘束時間を延ばし、疲弊させ、事故のリスクを高めます。 それは結果として、会社の利益と安全を売り渡しているのと同じです。

「運送」と「作業」は別物です。 タダ働きは今日で卒業しましょう。その作業には、適正な「値札」をつけるべきです。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

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