運送会社の経営者の皆様、毎日お疲れ様です。
先日、報道された白ナンバー無許可営業の摘発は、運送業界にとって決して他人事ではありません。
最終的には**「事業停止」と「数千万円~億単位の追徴課税」**という、極めて重い代償を払うことになります。
この事件は、**「トラック新法」**時代において、運送業のルールが決定的に変わったことを示す、重要な警鐘です。
1. なぜ「白トラ」は許されないのか?
白トラとは、国の許可を得ずに、自家用(白ナンバー)のトラックで運賃をもらって運送業を営む違法行為です。
- 法令違反: 貨物自動車運送事業法に違反する無許可営業であり、罰則は3年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い刑事罰です。
- 脱税行為: 運賃を申告していないため、所得税、そして巨額の消費税に対する追徴課税が発生します。意図的な脱税と見なされれば、**重加算税(40%)**が課され、追徴金は数千万円から億単位に膨れ上がる場合もあります。
- 不公平な競争: 白トラ業者は、正規の事業者が負担する社会保険料、高い任意保険料、安全管理のコストを支払っていないため、相場より著しく安い違法な運賃で競争を仕掛け、業界全体の運賃水準を破壊します。
2. 「トラック新法」が白トラを根絶する理由
これまでは「運が悪くなければバレない」と考える経営者もいましたが、2025年に可決された「トラック新法」(改正貨物自動車運送事業法)が、この状況を決定的に変えました。
- 法令遵守が許可更新の条件に: 2028年からは運送事業の許可が5年ごとの更新制となり、審査では**「適正な原価管理と運賃収受ができているか」**が厳しくチェックされます。違法な低運賃(白トラ)がまかり通ることは、この許可維持の妨げとなります。
- 荷主への罰則強化: 新法は、無理な低運賃で運送を強いる「悪質な荷主」や元請け事業者も監視・指導の対象とし、すでに社名公開が実施されています。つまり、白トラを使う企業側も、行政処分と社会的信用失墜というリスクを負うことになりました。
【罰則は白トラと同じ!】運送会社(緑ナンバー)が白トラを使うと問われる「3大法的リスク」と「社名公開」の現実
法的リスク解説記事
先の記事で、白トラ業者が摘発された際に負う「刑事罰と巨額の追徴金」のリスクについて解説しました。しかし、さらに恐ろしいのは、白トラを意図的に使っていた運送会社(元請けの緑ナンバー事業者)も、法令違反で厳しく罰せられるという現実です。
ここでは、貴社が白トラを利用した場合に直面する、具体的な法的リスクを根拠とともに解説します。
リスク1:白トラ業者と同等の刑事罰「名義貸し・事業貸渡し」
白トラ業者は無許可営業で「貨物自動車運送事業法」に違反しますが、その白トラ業者に仕事を与えた元請け事業者も、同じ法律で厳しく処罰されます。
- 違反行為: 許可された事業(緑ナンバー)の名義を、無許可の白トラ業者に実質的に利用させる**「名義貸し」や「事業の貸渡し」**行為と見なされます。
- 根拠法と罰則: 貨物自動車運送事業法に違反し、白トラ業者と同じく**「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方」**が科される可能性があります。これは、企業の信用失墜だけでなく、経営者個人の刑事責任を問う重大な罰則です。
リスク2:事業継続に関わる致命的な「行政処分」
違法な白トラを下請けに使っていたことは、法令遵守を怠った証拠となり、事業継続に関わる致命的な行政処分に直結します。
- 違反行為: 依頼した運送会社は、下請け業者(白トラ)が法令を遵守しているか指導監督する義務があります。白トラを使うことは、この指導監督義務を怠ったと見なされます。
- 行政処分: 違反が認められた場合、違反累積によっては事業停止や許可の取り消しといった行政処分につながり、貴社の事業に致命的なダメージを与えます。
リスク3:トラック新法による「荷主勧告と社名公開」
2025年に可決された**「トラック新法」**は、違法な運送行為に対する行政の監視を強化しました。
- 監視対象: 「悪質な荷主」や元請け事業者も監視・指導の対象に含まれます。
- 勧告と公開: 不当に低い運賃での運行依頼や、白トラを使っていた場合、新法に基づく荷主勧告制度により、国土交通省から指導を受け、最悪の場合、社名が公開されます。
- 経営的影響: 2024年1月には、すでに荷主・元請けの2社に対して初の荷主勧告と社名公開が実施されており、社会的信用を失い、取引先との契約停止に追い込まれるリスクは現実のものです。
まとめ:コンプライアンスの徹底こそが最強の防御
白トラを使うことは、**「一時的なコスト削減」と引き換えに、「刑事罰、事業停止、そして社会的な信用失墜」**という計り知れないリスクを背負う行為です。そして白トラは、事業用の貨物保険に加入していないケースがほとんどです。万が一、輸送中に事故が起きて大切な荷物が破損しても、一切の補償が受けられない可能性があります。
トラック新法が本格化する今、適正な運賃を勝ち取り、法令を遵守することこそが、貴社と経営者自身を守る、唯一の道筋です。今すぐ、すべての下請け業者について緑ナンバーの有無をチェックし、コンプライアンスを徹底してください。
🚨 追加リスク:税務当局からの徹底追及!「反面調査」の致命的な影響
白トラ業者への支払いを通じて、貴社自身が税務調査の対象となるリスクも極めて重大です。運送法違反で白トラ業者が摘発された場合、その裏には必ず**巨額の脱税(無申告)**が伴います。
税務当局は、この脱税の証拠を固めるため、**白トラ業者と取引のあったすべての企業(荷主や元請け)に対して「反面調査」**を実施します。
- 脱税共犯の疑い: 白トラ業者への支払いは、貴社の帳簿では「外注費」として計上されているはずです。しかし、税務当局は「この外注費の支払い実態はどうか」「架空の経費ではないか」という視点で、貴社の取引を精査します。
- 帳簿の整合性チェック: 調査官は、貴社の銀行の振込記録、請求書、契約書を徹底的に調べ上げ、「白トラ業者にいくら支払ったか」という客観的なデータを収集します。これにより、白トラ業者の無申告売上の全貌が明らかになります。
- 社内混乱と信用失墜: 反面調査は、貴社の経理部門や経営陣にとって大きな負担となり、業務が停滞します。さらに、税務当局から調査が入ったという事実は、貴社のコンプライアンス体制への不信感を取引先に与え、信用を失う原因となります。
白トラ業者に支払ったわずかなコスト削減は、刑事罰、行政処分、そして税務調査という、事業継続を不可能にする三重の致命的なリスクと引き換えにしていることを、経営者として絶対に認識しなければなりません。
我々正規事業者が今すぐ取るべき行動
白トラが排除される今こそ、正規の運送業者が適正な利益を確保する最大のチャンスです。
このチャンスを掴むには、もはや過去の経験と勘に頼る**「どんぶり勘定経営」を卒業し、「データに基づいた交渉」**に切り替えるしかありません。
- 自社の「真の原価」を計算する:
- 車両価格の高騰、社会保険料の総額上昇など、抗いようのないコスト増に対応するため、**「1運行あたり、正確にいくらのコストがかかっているか」**を計算する仕組み(固変分解など)を構築してください。
 
- 交渉の武器を持つ:
- 自社の原価計算書と、国土交通省の資料などの客観的なデータを武器に、荷主に対し**「この運賃でなければ、法令遵守も持続的な運送もできません」**と論理的に主張してください。
- 感情論ではなく、「これが、今私たちの身に起きている現実です」という**「自社の真実」**を提示することが、対等な交渉の唯一の方法です。
 
「トラック新法」は、運送業経営者に**「理論武装」**を義務付けました。違法な安売り競争に怯える時代は終わりです。この機会に経営の羅針盤をアップデートし、適正な利益を守り、ドライバーの処遇改善という未来への「攻め」の原資を確保しましょう。
この記事を書いた行政書士
岩本 哲也
運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、「きれいごと」で終わらない、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。
▼運送業の経営に関するご相談はこちら [行政書士岩本哲也事務所]
▼さらに深く「原価計算」を学びたい方へ この記事のテーマでもある「原価計算」について、具体的な手順や交渉術まで、さらに深く解説した書籍を執筆しています。「どんぶり勘定」を卒業し、自信を持って経営判断を下したい方は、ぜひご一読ください。 [【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。]
 
			 
						