運送業の経営者の皆様お疲れ様です。

「巡回指導」「監査」という言葉を聞いて、胸がざわつくことはありませんか? 「ウチは大丈夫だろうか…」「いつ来るか分からない…」そんな漠然とした不安を抱えてはいないでしょうか。

実は、行政書士である私も、過去に、一運行管理者として監査を経験し、その場で言葉を失うほどの厳しい指導を受けた苦い経験があります。

「分かっているつもり」だった。「やっているつもり」だった。しかし、監査官が一つ一つ書類をめくっていくたびに、自社の管理の甘さ、認識のズレが、容赦なく白日の下に晒されていく。あの時の、冷や汗と、経営者としての無力感は、今でも忘れることができません。

巡回指導は決して「怖いもの」ではありません。より改善してくれる心強い味方でもあります。

そして万が一監査が入ったとしても「準備」さえしておけば、恐れることはないのです。さあ、一緒に自社の足元を確認していきましょう。

セルフチェックリスト【最重要書類編】

適正化指導係の方や監査官の方がまず「これを見せてください」と言うであろう、最重要書類です。すぐに提示できるよう、ファイリングされていますか?

  • □ 運行管理者・整備管理者の選任届(控え)
    • 最新の選任状況が反映されていますか?変更があった場合、届出は済んでいますか?
  • □ 事業報告書・事業実績報告書(控え)
    • 毎年、期限内(事業年度終了後100日以内)に運輸支局へ提出していますか?控えは保管されていますか?
  • □ 運輸安全マネジメントに関する書類(該当事業者のみ)
    • 安全管理規程、安全統括管理者選任届など、適切に整備・届出されていますか?
  • □ 運行管理規程・整備管理規程
    • 最新の法令に合わせて、内容は見直されていますか?社内に周知されていますか?

日々の記録が「法律通りに」作成・保管されているかが、厳しくチェックされます。

セルフチェックリスト【帳票・記録編】

  • □ 運転者台帳
    • 全員分ありますか?記載事項に漏れや更新漏れはありませんか?(退職者分も3年間保存)
  • □ 点呼記録簿
    • 毎日、全乗務分記録されていますか?記載漏れはありませんか?(1年間保存)
  • □ 運転日報
    • 法定記載事項を満たし、1年間保存されていますか?
  • □ タコグラフ(運行記録計)の記録
    • 全ての運行分が記録され、1年間保存されていますか?解析・指導は行われていますか?
  • □ 乗務員への教育記録簿(指導監督記録簿)
    • 一般的な指導・監督指針に基づく教育(12項目など)の記録はありますか?(3年間保存)
    • 初任・高齢・事故惹起者への特別な指導の記録は、別途、確実に記録・保存されていますか?(3年間保存)
  • □ 事故記録簿
    • 報告義務のある事故が発生した場合、遅滞なく記録していますか?(3年間保存)

セルフチェックリスト【車両管理編】

車両の安全管理に関する記録です。

  • □ 車検証(コピー可)
    • 全車両分、すぐに提示できますか?有効期限は大丈夫ですか?
  • □ 日常点検基準表・記録
    • 各車両に備え付け、点検は毎日実施・記録されていますか?(記録は1年間保存)
  • □ 定期点検整備記録簿
    • 3ヶ月点検、12ヶ月点検(車検)の記録が全車両分ファイリングされ、2年間保存されていますか?

セルフチェックリスト【労務管理編】

ドライバーの労働環境に関する書類も、監査の重要項目です。

  • □ 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(法定三帳簿)
    • 全従業員分、正しく整備され、5年間(当面の間は3年間)保存されていますか?
  • □ 36協定(控え)
    • 有効期限は切れていませんか?労働基準監督署への届出は済んでいますか?協定内容は遵守されていますか?
  • □ 健康診断結果
    • 全員(常時使用)が年一回受診し、結果は5年間保存されていますか?
  • □ 適性診断・適齢診断の結果
    • 受診義務のあるドライバー(初任・事故惹起・高齢)は、全員受診済みですか?結果に基づいた指導記録はありますか?(結果は3年間保存)
  • □ 運転記録証明書
    • 雇入れ時や、事故惹起者に対して取得し、内容を確認・指導した記録はありますか?
  • □ 年次有給休暇管理簿
    • 全従業員について、年5日の有給休暇を確実に取得させていることを証明できる記録がありますか?

まとめ:監査対策は、強い会社を作るための「健康診断」

このリストを見て、「ドキッ」とした項目はありましたか? もし一つでもチェックがつかなかった項目があれば、それが今のあなたの会社の「弱点」です。

これらのチェック項目は、監査のためだけに存在するわけではありません。これらを日々確実に実践することこそが、事故を防ぎ、ドライバーを守り、荷主からの信頼を得て、結果として「強い会社」を作るための、最も基本的な「健康診断」なのです。

監査が入る前に、まずご自身の会社の「健康状態」を把握し、もし弱点が見つかったなら、今すぐ改善に着手しましょう。それが、未来の「冷や汗」をなくす、唯一の方法です。

この記事を書いた行政書士

岩本 哲也

運送会社の経営に携わる、現場経験豊富な現役の行政書士。 法律知識と現場感覚を掛け合わせ、「きれいごと」で終わらない、運送業経営者のための実践的なコンサルティングを得意とする。

▼運送業の経営に関するご相談はこちら [行政書士岩本哲也事務所]

書籍紹介[【トラック新法対応】「お願い」する運賃交渉を、今日で卒業する本。]